フェチというのはあるもの、あるいは事柄に対して、偏執的に入れ込むことをいう。
大抵の場合、他人にはその価値が良く分からないことが多い。
「え!?なんでそんなもん・・・!!!???」
と、思われれば思われるほど上級者だ。
例えば、今の私だったら「植木フェチ」。
「桜が欲しい…」
の一言から始まった今回の植木騒動、小梅ちゃんに始まり、フリオの墓に植えた小桜ちゃん、ブルーベリーくん、花桃太郎、そして、
「やっぱり大きい桜が欲しい!」
…っていうんで、いつの間にか買ってしまった、しだれ桜のシダリン…
「普通に買えば一万五千はしますよ。でも、じいちゃんの畑だから…」
親切にもライトバンで運んでくれた、造園屋跡取りの孫、佳くんが言う。
確かに、あの大きさだったら、それくらいはする。
それを「じいちゃん」は三千円でいいと言うではないか!
「ちょ、ちょうだい…」
もう、これ以上は増やさない!と誓った矢先に買ってしまった…(笑)
「どんな鉢に入れてらっしゃるの?」
シダリンを見たお隣りの奥さんがベランダ越しに聞いてきた。
奥さんは小梅ちゃんを最も間近に見てる、このマンションの住人だ。
次々と増えて行く隣家の木々にさぞかし驚いているのであろう。
「一見、テラコッタ風なんだけど、実はプラスチックの鉢があってさ…」
「んま!」
「この大きさで本当の素焼きだったら、重くてしょうがないじゃなぁい!」
「あら、そうよね!」
「でしょ!」
「でも、咲いたらきれえでしょうねぇ」
「奥様、今度お花見するから、いらっしゃいよ!」
「んま!寄らせていただくわぁ!」
…なんて、通路を挟んでベランダ越しに、奥様方の井戸端会議でした。
さて、話は「フェチ」に戻って…
私が植木だったら、愛猫たちは?
まず、長老のむぎょどん。彼女は「乾きものフェチ」。
酒の肴系が大好きで、とりわけ鮭の薫製、シャケトバには目がない。私が食べようとしようものなら、鼻をふがふが鳴らしながら「悪いようにはしないからさ…」と、言い寄ってくる。
がんじろうは「盗み食いフェチ」。
テーブルの上に唐揚げなどおいて、目をはなせば、ものの二秒でなくなる。
「こら、がんじろう!」
と、叱ると、
「おらじゃねえですだ!」
と、激しく否定するが、口の回りは油でテカテカだ。
ためおくんの場合は名にし負う「がんじろうフェチ」。
アニキのことが大好きで、気がつけばいつもべとーっとひっついている。
しかし、ためおの場合は相手が「一緒にひっつきたい猫」
3年連続一位のがんじろうだ。
フェチ的に言えば、まだまだビギナーだと言わざるをえない。
その点、今日の主役、ふうちゃんに関してはまさにプロ級のプロ、これぞ「フェチ王」の称号にふさわしい、フェチ中のフェチだ。
彼女は世にも稀な「人足フェチ」なのである。
今、うちのマンションは防水工事などで壁に足場を組んでいる。
ここを職人さんたちが行き来するのだが、これを眺めるのが、尋常じゃなく好きなのだ。
窓から彼らの足が見えたりすると、狂ったように近寄り、うっとりと見ている。
普段は誰よりマイペースで、他人(他猫)には一切関心を示さないふうちゃんだが、人足ばかりには常軌を逸した執着を見せる。
一心不乱に見つめるその瞳には、少女漫画のようにキラキラ星が舞っており、一種近寄りがたい集中を感じる。
これぞまさしくキャット・オブ・ザ・フェチ;「フェチ道」の王道をいくふうちゃんであった…
「棟梁の足が好きやっちゃがぁ!」


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