「その年になって今ごろ気づいたん!?」
通し稽古が終わって、振り付け助手の河岡に言われた。
河岡は12年前のミス・サイゴンそしてキャバレーと共に関わってきた戦友である。
事の発端は、小池先生が私のソロパートにダメを出したことから始まる。
「音程にとらわれすぎていて、意味がはっきり伝わってこないな・・・」
先生は出来るだけ遠まわしにおっしゃってくれたが、手短かに言えば、
「はるパパ、歌へた・・・」
だったのである。
しかし、これは誰より自分が承知していた。
♪イギリスが黙って見過ごすはずはない 同盟は難しい♪
たかだか4小節のフレーズに私は初演から「4年越しに」悩まされていた。
「十二夜」の♪お楽しみは♪だと、テノールの自分にはキーが合っていて実に
「鳴りやすい」のだが、♪イギリス・・・♪は自分の最も鳴りにくい中音域で、
しかも音が一個おき、ジグザグに上がったり下がったりする。
みなには黙っていたが、実はこの稽古が始まる前から、つまり2003年の年末から
私なりにお稽古していたのだ。
にもかかわらず、自分の部屋ではできても稽古場に行くとからっきしダメなのである。
実は、小池先生にいつ指摘されるかずっとびくびくしていたのだ。
「はるぱぱ、音を気にしないで大きなフレーズで歌ったらいいよ」
小池先生からダメを出された翌日、果たして今日ちゃんとできるか不安の気持ちの
ままストレッチをしていると、歌唱指導の林アキラちゃんがつーっとやってきて、
私にそう言った。
正確に歌おうとするのではなく、大きく意味を伝えろと言うのである。
分かりやすく言えば、ノコギリみたいに件のジグザグをきちんと歌うのでなく、
のこぎりの形を大きくひとつでとらえろと言うことだ。
ま・・・かえって分かりにくかったかもしれんが・・・
とにかくその「大きなノコギリ」で私は歌ってみた。
「今日、今までで一番良かったよ」
河岡が稽古を終えて私に言った。なんと、例の♪イギリス♪が良かったと言うのだ。
実はタマちゃん(鈴木綜馬)にも、歌い終わった直後同じ事を言われていたのだ。
有頂天になった私はしてやったりで、こう言った。
「あんまりさ、細々(コマゴマ)いじくらんで単純にええ声で歌たらええねん!」
すると12年来の親友河岡は目を点にしてこう言ったのだ。
「その年になって今ごろ気づいたん!?」
池田君へ
あまりいじくらんと、シンプルにええ声で芝居したらええねん・・・

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