翌日、エンナ・千影と河内マサルの埋葬が行われた。
喪服姿の能力者たち。本部の全ての人間が二人を見送った。
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「ちょっといい?」
ソラがシツキの腕を引っ張って建物の裏へと引き連れた。
「…あんた今何を思ってるの。」
「何、って。」
「二人を見送ってこれからどうするとか…」
「悪夢に現れるヒルイトなら睡眠中に何かが起こる筈だ。…自分で検証する。」
「でももしヒルイトが現れたら、あんた一人で倒せる訳ない!」
「……俺は能力者だ。倒せない見込みがあるなら現実に戻ればいいだけ。違うか?」
シツキの言葉に怯みを見せないソラは、ふんと高く鼻を鳴らした。
まるでお前に出来る訳が無いとでも言っていそうな感じで。
だがシツキの瞳はソラを掴んで離さない。揺らぎを感じさせない屈強な瞳。
「それなら条件があるわ。」
ソラはシツキを確かめるように強く口を開いた。
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丁度シツキがソラに呼ばれてから数分後。ミツキがシャンと一緒にシツキを探しにあちこち歩いているところだった。建物裏から二人の声が聞こえると、ミツキはシャンの腕を引っ張って走る。
建物裏に辿り着いた時、聞いてはいけないような言葉を耳にした。
「シツキ。……私も一緒に寝る。」
「………どう言う事だ?」
「ねっ、ねねねね……寝るぅー!?」
「…………若いな。」
ソラの発言にミツキが顔面を真っ赤にして近寄り、前に立ちはだかった。
「ソラさん! 何を言ってるの!! シツキはミツキと一緒に寝るんだもん。」
「ミツキ・リィンバルウフ?! それにシャン・シャオ…あなた達何故此処に。」
突然騒ぎ出すミツキ。
シツキを睨むと頬に向かって平手打ちをかます。
――ぱんっ。
「〜〜っつ。何だよミツキ、俺が何かしたか?!」
「知らない! もう知らない!! ミツキの大事な大事なシツキだったけど、もう知りません!」
頬を膨らませると地団駄を踏み鳴らしながらミツキはさっさと行ってしまった。
何も解らないままミツキの背を眺めていたシツキは、シャンを見上げる。
「……良く解らない。」
「若さの至りだ、気にするな。俺はミツキを慰めてくるとするか。本当は役ではないんだがな。」
ふっと苦笑めいた笑みを吹きかけるとシャンもその場を立ち去ってしまった。
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自室に戻ったシツキは軽い眩暈を起こした。
ほんとうに小さいものだったから、額に手を添えてその場にじっとしていた。
「…俺も何だかんだ…疲れが溜まってるのかもしれない。ツォルトの言う通り、一人で抱え込み過ぎなのか? でも…」
――― 己が欲望は時に周囲の人間をも飲み込み失わせてしまう ―――
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同じく自室に居るミツキは現在待機中。
南アメリカの方で被害を拡大しているヒルイト感染者、そのオリジナルを捜索中なのだ。自室でサーチするのと、情報課でサーチするのとじゃ矢張り自室の方がリラックスしやすく、サーチ範囲も広がるというもの。
しかし先程シツキとソラの決定的発言とも言えるものを聞いてから、サーチに集中が出来ずにいた。
「なんでなんでなんで。」
集中すればする程、繰り返される言葉。
「シツキ、会いたい。シツキ会いたい…」
――コンコン。
ノックの音が聞こえた。慌しく振り向き扉を開ける。
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「シツキぃ〜!」
「――うわ! み、ミツキ…ちょ、っ。」
勢い良く抱きつかれたので背中から落ちると思ったが何とか踏ん張れた。
ミツキはポロポロと涙を流している。
自分に非があるのだとシツキは感じるが、何をしたか思い出せない。一先ず彼女の背中を優しく撫でてやった。
「… あ た た か い …」
「部屋入ろうか、ミツキ。」
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ミツキが大分落ち着いてからミツキから話を切り出した。
「シツキ…… ソラさんと… その……。」
「???」
「……わ、私は…私はシツキのこと好きだよ?」
「ん……ありがとう…。」
照れくさそうにしているよりかは、当たり前の様に思っているシツキ。鈍感だから女心がわからない。だがミツキの想いは確かなのだ。
「…好き。大好き。」
「わ、分かってるって……」
ミツキが自分の服の胸元のリボンを解いていく。ひらりと落ち、シツキを上から見下ろすようにしてソファに押し付けた。
「ミツキ……?」
熱でもあるのかと思ってミツキの額に手を添えてみるがなんとも普通だ。
ここまでしながらシツキの鈍感さは呆れかえるほどだ。額に当てられた手を掴み、ミツキはふくよかな胸にシツキの手を当てさせる。
流石のシツキも動揺し、思わず胸を掴んでしまった。
「あ………ご、ごめん……。」
「いいの。シツキ。…シツキならいいの…私のこと……抱いて欲しい。」
突然の言葉にシツキは漸くミツキの行動を理解した。
慌ててソファから身を起こそうとしたがミツキのビューイングサーチ能力の派生型、パライズの能力がシツキを縛り付けている。
「み、ミツキ。待てっ! お前おかしいぞ、何があったんだ!」
「ミツキのこと……好き?」
「……好きだって言ってるじゃないか?!」
「本心? 本当は…ミツキじゃなくて……」
その時ミツキの心に嫉妬の炎が微かに見えた。
シツキは一瞬の隙をついてαを発動させる。
――― 憎い憎い憎い憎い憎い ―――
――― ソラ シツキ ソラ シツキ ソラ ソラ ソラ ―――
――― 大好きなシツキ奪うソラ 嫌い 許せない 大嫌い ―――
――― 奪わせない シツキは私のもの だからシツキと添い遂げる ―――
嫉妬の思念が根強く絡みついてくる。
パライズのせいで思うように思念を取り除く事が出来ないようだ。それでもミツキの精神を普通に戻すなら少しでも削ったほうがいい。
「ミツキ! 勘違いしてる。俺はソラと何の関係も無い!」
「シツキシツキシツキシツキシツキシツキシツキシツキ!!!!!!」
ミツキの上半身、残っているのは下着だけだ。
このままだと本部内に更に恥ずかしい噂が流れるのも時間の問題。混乱しているミツキは思念を削るだけでも精一杯で、思念はどんどん滲みあふれ出してくる。
――止められない
シツキはαの全解放を望もうとした。しかしもし全解放となればミツキの精神はボロボロに崩れてしまう。彼女は強く大丈夫という絶対の自信でさえも、今は考えられないのだ。
ミツキは既に全裸に近い状態だった。
嫉妬の思念も此処まで来るとヒルイトに侵食されたと言っても過言ではない。
シツキは賭けにでた。ミツキを気絶させることが出来れば或いはと。
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「聞こえる、確かに聞こえるわ。」
ミツキの部屋の前でアールとソラ、そしてシャンが立っていた。
「あの声……ミツキよ。恐らく相手はシツキ!」
「どうしてあんたの鼻息が荒いワケ? 別にどうも思ってないくせに。」
「そういうソラはどうなのよっ。……シャン、あなたも白々過ぎる!」
「……シツキが大人の階段を昇るも、そうでないにしても俺らは関係ないだろう。」
何を感心しているか知らないが、アールは意を決して扉の前に立った。
「邪魔をしない方がいいだろう。お互いの親密以上の関係を崩す結果になるかもしれん。」
「…だけど廊下にまで声が響いて…! 節度を守って貰わないと。此処は注意すべきよ。」
「注意はいいが、入った時点で大人の階段中だったら……アール、お前が気まずいんじゃないのか?」
「うっ……!」
シャンの思い切り発言に暫し黙ってしまったアール。
しかし――
「…何がどうあれ、注意はすべきよ。……入るわよ、二人とも!」
アールは二人の居る部屋に侵入した。
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「シツキ、ミツキ! あなた達まだ子供なんだから、節度守って階段を――」
アールが二人を見つけたとき、シツキはミツキにマッサージをしている所だった。
何かアールの中から抜け出たように石化する。
「そこ痛いっ、……? あれ、アール?」
「あ、ごめん。つい力入れすぎちゃって……アールじゃないか、どうしたんだ?」
既に放心状態であるアールは言葉が出なくなっていた。
「ちょっと、シャンとソラさんまで居るじゃない! 何よ、私は今シツキにマッサージしてもらってるんだから邪魔しないでよね。」
「……ごめんミツキちょっと待ってて。」
「すぐ戻ってきてね?」
「ああ。直戻るよ。」
アールを部屋から出して廊下で小言会議が始まった。
「シツキお前……、やっぱり私の勘で間違いなかった。お前は子供だ、うん。」
「は?」
「アールの勘違いと言うやつだ。お前はミツキと何も無かった。」
「………そう言う事か。紛らわせて悪かった。話…後でするからミツキの所に戻るよ。」
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部屋に戻るとミツキは全裸で立ち尽くしていた。
部屋には鍵を閉め、シツキはミツキを見据える。αを使用しなくても侵食は進んでいた。
「ミツキ… お前がヒルイトに侵食されるなんて皆想像もつかないよ。」
「遊んで、遊んで、シツキ遊んで。」
「遺恨の思念も浮かんでる。君に宿ってる侵食は…遊郭、売春された人間の負の感情。あまりにも酷く、弄ばれた人間の思念。」
ミツキは裸体のまま近寄りシツキの唇を指でなぞった。
「私を使ってほしい。私を遊ばせて。ねぇ、遊んで?」
売春婦ミツキはシツキの背に腕を回し、抱き寄せた。
やはりこのままでは自分が一番危ういと感じた。
だからこその―
αの全解放。
したはずだった。
しかしここは、この場所は。
――― 出口の無い空間 無の道 光探せない 振り返れば地獄 ―――
カバチ君の夢の中と同じ、あの風景が目の前に広がっていた。

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