――― 時は 満ちた ―――
タッタッタッ―
何処まで走っても出口が見えてこない、此処は一体何処なんだ?
タッタッタッ――
まだか、まだ見えないのか出口は!
タッタッタッ―――
――― コンニチハ ココハ出口ジャナイヨ ココハ ココハネ ―――
今まで通ってきた通路が一瞬にして赤く染まっていく。まるで別の世界に紛れたようだ。息をする暇も忘れてどこから聞こえる声だけを聞いていた。
――― ココカラ先ハ 地獄ダヨ ホラ 振リ返ッテ御覧? ―――
俺は恐る恐る振り返った。
すると何かに吸い込まれる様、一瞬の内に意識を落とした。
+++++
「っっあああああああああああああああ!!!!!!!!」
大きな悲鳴と共に飛び起きた。全身汗びっしょりで腕で額の汗を拭った。
悲鳴は両隣の部屋にまで響き、驚いた人たちがドカドカと部屋のドアを外から叩く。
ゆっくりベットから離れ部屋の鍵を開けると思い切りドアが開き、衝撃で思わず後ずさる。
「今声がしたぞ、大丈夫か!」
「いやあぁぁシツキシツキシツキっ、ミツキが看病してあげるぅぅ!」
大丈夫だから、とは言えなくてこの場は何でもないと二人にお帰り願った。
此処はFoxi本部。俺の名は神城シツキ。αの使い手だ。どんな能力かは今発揮出来ない、何(いづ)れ機会があれば見せよう。
そして先程部屋を訪ねてきた男の方が、シャン・シャオ。俺のパートナーであり一番信頼出来る兄の様な存在だ。彼はβの使い手だ、こっちも機会があれば見せてくれるかもな。
そしてちょっと声の高い女の方は、ミツキ・リィンバルウフ。ビューイングサーチを能力として持つ、Foxi情報部員の一人。彼女を怒らせてはいけない。もしかすると能力の使い手で一番強いのは彼女かも、という噂もあるくらいだ。
とにかく今は自分を落ち着かせることに専念した。
依然にも似た夢を見た気がするがあれが何だったかは覚えていない。
「最近ロクな夢さえ見てないな……。また俺の心が弱くなった証拠なのか。」
着替えを済ませると部屋を出て総合能力トレーニング室に向かった。
+++++
「ヤッホー♪」
「千影さんじゃないですか、珍しいですねこんな所で会うなんて。」
エンナ・千影。彼女は日本とイタリアのハーフである。Foxiには色々な国から適した人間を連れて能力者として育成している。彼女もまた能力の使い手なのだ。
「珍しいかな? 珍しいっか。ところでシツキちゃん。ミツキちゃんから聞いたよ。」
「何をですか。」
「朝ものっすごい悲鳴上げて起床したんでしょ?」
「……はぁ。」
早速社内にばらしたんだろうと呆れてしまう。
「…不愉快な夢ならアタシが食べちゃうのに、えへへへ。」
「じゃ今度お願いします。」
「え、そう? えへへへ、シツキちゃんのお願いなら仕方ないかなー。」
千影は夢を食べるドリーマーハングの能力を持つ。但し効力が本気で発動する時は、睡眠者と一緒にいなければ食べる事が出来ない。
繊細な能力だと皆は言う。
「千影さんが訓練って…誰かの夢でも食べるんですか? シュミじゃ無理なのでは?」
「んーー……もう少しで来てくれるハズなんだけどー…。あっ、きたきた!」
振り向くといかにもオドオドした雰囲気で有名なカバチ君だ。
「カバチ君…?」
「うひゃあ。かかかかか神城ひゃん!?」
「驚きすぎだから……本当に千影さん、カバチ君のを?」
「そうよ。彼最近不眠症なんだって。その理由が『夢の中で僕は迷子になってしまう。誰に助けを呼んでも誰も返事してくれない。道は一つしかないのに迷子になるはずないのに…僕は光の見えない道をどんどん奥に進んでいく…』」
千影の言うことが自然とシツキの耳に届く。
不安と焦り、そして恐怖心が次第に胸を締め付けてくるような感じだ。
カバチ君も様子から察するに震えが止まらなくなっていた。
「『ついに出口に辿り着いたかと思ったら…突然どこからともなく声が聞こえてくる。この先は出口じゃない、この先は地獄、振り向いてごらんよ……すぐ其処が出口だよ?』ってね。本当かどうかわかんないけど……アタシは単に気の迷いだけだと思うんだよね。カバチちゃんったらそそっかしい所沢山あるじゃない?」
シツキはつい癖でαを使用していた。使った相手はカバチ君だ。今の彼の心理を外側から覗いていた。だが彼から覗けるものは至って普通だった。
「…かかかかか神城ひゃ…まさかまさささ…僕の心をよよよよんで???」
「え…、いや…その…」
「シツキちゃんも気にはしてるんだよね。カバチちゃん、みんなに心配かけちゃってるよ!」
「ごごごごごごごめんなささささ。」
一先ず千影に任せ、シツキはシツキの訓練をしようと能力室へと入って行った。

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