2009/7/29
鳴沢の遺体は運ばれ、鷺沼の後には課長と佐貫、そして数人の警官と立っている。その後にどうしても行きたいと波音の姿まであった。
「嘘でしょ、鷺沼さん…!」
「………課長。改めて聞きたいんだが、俺はクビでいいんだよな?」
「…鷺沼…その前に教えてくれ。」
課長が鷺沼に近付き言葉を発した。
「鳴沢を殺した事実は分かった。だがどうして殺した? お前達が単なる喧嘩や悪ふざけでこんな事故になったとは言い難い。教えてくれ鷺沼。」
「…強いて言うなら、鳴沢が嫌いだったからですよ。」
「鷺沼…お前…っ。」
しぶしぶ課長は待機命令を下していた警官達に指示し、鷺沼に手錠をかけさせた。
鷺沼自身は反省の色を浮かべていたが、その風貌は変わらぬ存在感を醸し出していた。
「サギ!」
「…よー。……悪ぃなさっきの電話。」
「嘘でしょ? ねぇ…サギ。」
「……嘘はつかねぇよ俺。……逆取調べか……カツ丼出るかな。」
「ふざけないでっ!」
波音は鷺沼の腕を掴んだ。
とても苦しい。目には涙を浮かべている。
「……ナミ、泣くんじゃねぇ。」
そっと涙を拭ってやる。
波音は鷺沼に抱きついた。
「…………イヤ……サギ……っ。」
「俺の手は血に染まった。もうお前に何も出来ないんだ。」
そっと別れて鷺沼はパトカーに乗せられそのまま署へと運ばれた。
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取調室。
鷺沼は鳴沢殺しに嘘偽りなく正確に述べた。この供述は誰もが信じ、そして誰もが鷺沼の行動が信じられないと疑った。
だが鳴沢が鷺沼に殺された事実は完全に否定出来ない事実であり、署内には黒雲が現れたように士気が低下したのだった。
署内の地下一階にある個室に泊まる事になった鷺沼。
後悔はしていない、ただ銃を撃った時に感情はなかった。それが暗闇で生きる『カラス』なのだ。
「………Dear.ーーー。I'm a KARASU。俺はカラスだ、俺がカラスだ。誰にも渡さない、誰にも譲らない。誰にも……。」
次第に瞼が閉じ、眠りへと誘われた。
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翌日、鷺沼は再度取調室に呼ばれた。
「……鷺沼。これで鳴沢を撃ったのは間違いないな。そして鳴沢が持っていたと思われるこのカセットテープ。これは先日の朝、署のポストに投函されていたテープの内容と同じものだ。恐らく鳴沢は立ち聞きか何かしていて、お前を真っ先に疑い……お前を填めようとしたのだろう。だが鷺沼。お前が鳴沢を殺したのは紛れもない事実であり、お前自身も色々と後悔はあるかと思う。…俺はそう信じたい。だからこそお前にもう1度問いたいのだよ。」
「答えられる範囲でならお答えします、ただ……」
「ただ…?」
「カツ丼は出るんですよね?」
意外に元気そうな鷺沼の発言に課長も目を丸くさせ、咳払いをした後苦笑。
「さて、ハッキリさせたいことを先に済ましてしまおう。我々も気にし、そして鳴沢も気にしていたことだ。もう1度、カセットテープの内容について答えてもらう。数人で話している内の一人はお前で間違いないのか?」
「………間違いありません。」
揺らぎの無い言葉で答えた。
「では、テープ内で話している作戦……他者からの指令についても間違いないと?」
「……一部の内容しか聞き取れなかったんで、実際指令を受け取っても実行したかは覚えていません。」
「覚えていないことはないだろう? それとも相談後に何かあったとでも言うのかね?」
「…分かりません。ただぼんやりと頭が痛むだけ。…恐らく指令は実行し、その後見知らぬ誰かに記憶を奪われたのかも。俺は全く覚えていません。」
「記憶を奪う? 随分難しいな。……だが実行した事すらも簡単に忘れてしまうのはどうかと思うが。」
「…………。」
鷺沼はふと自分の腕時計を見つめた。
何の気なしの行動が課長の目に止まる。
「どうした?」
「…………俺の時計、10分早いんですよ。だからーーー。」
その時警察署の後方部分から爆発並の音が聞こえた。衝撃は建物を通じて、取調室にまで轟く。
ガタガタと揺れる室内、慌てて立ち上がった課長だが余りに揺れるので足をくじき倒れてしまった。
「ぐあっ。し、しまった…足を挫いてしまった。さ、鷺沼…すまん、肩を貸してくれんか…?」
鷺沼は無言のまま課長の前に立ち、にやりと笑みを浮かべた。そして証拠品として預かっていた鳴沢を撃った拳銃を袋から取り出すと課長へ向ける。
「!!!! さ、鷺沼! 何故だ!!」
「……一度人を殺めてしまうとその快感に溺れるんです。…鳴沢は美しかった。あいつの死に際は俺を恍惚とさせた。……ああ…課長には黙ってましたが、俺、課長に最後正直にホンネを言いますね。」
かちゃりとトリガーを引き、ごつっと課長の額に銃口を押し付けた。
「…まさか不運にも足を挫くとはな。お前の正体? フン、どうせ過去窃盗したとかそういうんだろう。鷺沼、俺はな……鳴沢ではなくお前を推薦していたんだ。お前の人柄が署に悪影響を与えてしまうなんて俺はな…。ああ…死ぬと分かって中々言葉が出てこないのは歳かな。」
「俺は鷺沼統夜。それは仮の姿。……本当はーーー」
ーーーーードォン!
課長の眉間に発砲した弾は頭蓋を貫通し後の壁に突き刺さる。
「『カラス』、署が追っていた紛れもない『カラス』です。」
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カラスは署を抜け出した。
だが道中、佐貫と波音に遭遇したのだ。
「サギ!」
「鷺沼さん、………」
佐貫は波音を庇うようにして一歩前に出た。
その姿にカラスはくっと不敵に微笑む。
「あなたが非情なる『カラス』だったんですね。」
「こりゃ参った。ついにお前にまでばれてしまうなんて。」
「嘘でしょ、サギ…。」
「嘘じゃない。さっきも取調室で課長を殺してきたよ。……いやぁ、本当に殺しってのは快感、ゾクゾクくるな。」
「課長まで、殺した…?! あなたの目的は何なんですか!」
佐貫がわなわなと震えながら人差し指をつきつけカラスを見据えた。
「…カラスに目的は無い。ただ…殺したいんだ、誰でもいい。俺の欲望を満たしてくれるなら男だろうが女だろうが、子供でさえ手をかける!」
「ゆ、許せない………!!」
佐貫は警察用拳銃をカラスに向けた。
それでも眉一つ動かさないカラス。
「……お前に俺が撃てるか? はは、無理だろ。逆に俺がお前を殺して……ナミ、あんたを殺す。佐貫の返り血を浴びたお前を…最後に抱き、一撃で仕留めてやる。」
「……どうしてなの…あなたそんな人じゃない!」
「人は誰でも仮面をつけてるのさ。俺は残虐非道のカラス。それだけだ。」
「だってサギ、あなたは……優しい人よ!」
「波音さん。済みませんが逃げてください。このままじゃ二人とも殺されます。」
佐貫はゆっくりとカラスとの距離を縮めた。
「……‥佐貫。先に撃たせてやる。10数えるうちに何発でも俺を撃ってしまえ。公平だろ?」
「どこが公平ですか! 手錠をかけます。銃を下ろすんです!」
「連れないな〜佐貫。俺とお前の仲じゃないか。死ぬのが怖いなら俺を撃ってしまえ。」
「やめて下さい!!」
ーーーーーーーーードン、ドンッ、ドンッ。
「きゃあああああああああああああああああああああああああァァァァァァァ。」
波音の悲鳴は辺りに轟いた。
何発か重なり合うように銃音が響いた。
しかし出血多量で前のめりに倒れこんだのはカラスーー鷺沼の方だった。
「ごほっ、ご………っっ。鷺沼…さ、ん………鷺沼さんっ!!」
「……ば、かな……誰、が俺…… ごぽっーー」
鷺沼は後から第三者によって左胸を撃ち貫かれていた。佐貫がまだ銃を握れている間、鷺沼に近寄りながら背後から撃った人物を見据える。
波音は既に混乱気味でその場に座り込んでいた、表情は青褪めている。
鷺沼を撃ったのは『カラス』創生者、Dear.。
「カラスは終わった。私は次なるカラスを探す。最期まで良い夢を、アディオス。」
Dear.は煙玉を使用しあっというまに姿を消してしまった。
「………さ、ぬき…無事……、ナミ……守………れ。」
最期口にした言葉は佐貫が波音を想っていたからこそ、同僚として掛けてあげた優しさ溢れる台詞だった。
「に、げろ……はやく……。」
既に周囲には沢山の野次馬と、遅れて救急車も到着した。
この後は全員病院へ運ばれそれぞれが意識を取り戻し、仕事に就ける様になったのは約半年後のことだった。

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