2009/6/13
朝の全体朝礼。課長の一言で全警察が驚いた声を上げた。
「これから君達全員の身体検査、及びカラスについてどう思っているかなどの調査アンケートをしてもらう。各自それぞれの事務所に戻り、アンケートを実施してもらう。断る事は一切許されない。」
ざわざわと静まらない動揺と不安の入り交じる朝礼から一変し、事務所に戻れば案の定、アンケートをとり行った。
「鷺沼さん、どうして課長はあんなこと言い出したんでしょう?」
「…知るか。」
「もー…どうして素っ気無いんですかいつもいつも……。」
「うるせぃよ。」
黙々とアンケートを取り、提出すれば何時もの時間がやって来た。各自の仕事が始まる。
仕事に取り掛かっていること数分足らず、鷺沼は課長に呼ばれた。
「はい。」
「先日の件で話がある、ちょっと付いて来い。……おい、鳴沢!」
鳴沢も呼び出されて課長と一緒に別室へ移動した。
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鳴沢は怪訝な表情で椅子に座り、鷺沼は何も動じない様子で煙草に火を付ける。課長は二人の反対席に座り煙草をふかした。
「で、どうして鷺沼と一緒に呼ばれなきゃならんのです課長?」
「まぁ待て。最近のお前達の活躍を見込んで警察署長から直々に特命を仰せ付かってな。是非とも協力して欲しいとのことなんだ。」
「…課長。それなら鳴沢警部補に任せれば済む話では。俺では釣り合いが取れませんし。それは課長も知ってるでしょう。」
「だからまずは私の話を聞いてくれ。……我々が裏で追っている『カラス』についてだが、『カラス』は一人ではないことが判明した。」
「………それで我々が『カラス』の全てを追えと言う事ですか?」
一旦口を閉ざした課長は席を立ち窓の前へ佇んだ。
しばらくふかしていた煙草は灰皿に擦りつけてドンと机を思い切り叩く。
「鷺沼、鳴沢!! お前らしかいないんだ。カラスの正体とその背後にあるもの…調べてくれ、頼むっ!」
課長が額を机に押し付けて頼んでいる。
頭を上げてくれなんて言い難いし、返事をしなければずっとこのままだろう。
「…課長、頭を上げてください。カラスの調査、喜んでお引き受け致します。」
鳴沢は当たり前の様に言い放った。
「鷺沼、頼むっ!」
「…………嫌です。」
「なっ……?!」
鷺沼は断りを入れれば席を立ち部屋を出ようとドアに手を掛けた。
「鷺沼! 貴様…どうしてそこまで悪びれてるんだ?! 課長…いや、署長の頼みなんだぞ、特命だ。それを簡単に断るなんてどんな了見だ。」
「……あんたと仕事したくない。それじゃ失礼します。」
自分勝手であることは認めて居たが、協力が出来ない警察は必要ない。鳴沢は鷺沼に対して更に憎しみを抱いた。
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「鷺沼さん、どんな話だったんですか?」
「別に。」
「……あの…怒ってます?」
「別に。」
事務所に戻って来た鷺沼を迎えたのは相方の佐貫。どんな呼び出しで行かれたのか気になって質問してみたが答えて貰えず、頭を垂らしていた。
話は早めに切り上げて来たので昼食まで時間があり、偽工作でカラスの資料を一から作らなくてはならなくなった鷺沼は、自分の席から余り動こうとせず、珍しく休憩を取らずに黙々とデスクに向かっていた。
「……なんだこれは……!!」
鷺沼のパソコンにカラスの代名詞と言われている、マークがパソコンにでかでかと表示された。
「どうしたんです?! え、あっ……こ、これって。」
「カラスのマークだ……」
「どうして鷺沼さんのパソコンに?? みんなのパソコンには無いみたいですが。」
「……カラスが予告を出した。」
「それってつまり鷺沼さんがカラスに狙われる対象になったってことですか!」
佐貫の発言に事務所内の人間が一斉に立ち上がり、鷺沼のデスクに集まってきた。
カラスのマークを見た警官たちは次々に鷺沼が殺されるだの、早めに帰れだのと煩く発言する。
「うるせぃよ。俺が狙われる? ハッ、カラス如き俺がその場で即刻逮捕してやるさ。」
「確かに鷺沼さんならやりそうですけど……でも、相手は犯罪者なんですよ!?」
「……俺なんか殺して得する人間は一人しかいないね。」
「誰ですか…?」
「…鳴沢だ。」
デスクに集まっていた警官の一人が振り向くと鳴沢が丁度事務所に入って来た。課長との話は済んだんだろう、警官がその場から離れると鳴沢は鷺沼のパソコンに表示されているカラスのマークを見て、ふっと口元を歪めた。
「ほぉ……ついに貴様に死神が降りたと言う事かな?」
「鳴沢警部補! 鷺沼さんは被害者になるかも分からないんですよ。そんなこと…」
「……何が言いたい、鳴沢。」
鷺沼は苛立つ様子を持っている鳴沢に対し、静かに振り向き鋭い眼光で鳴沢を睨みつけた。
「くくっ。これは失礼。君にはまだ死神は早いかな。だって嫁さんも居ないもんね。」
「………鳴沢。これだけは言っておく。」
「ははは負け惜しみか!」
「あんたに『カラス』は捕まらないさ。」
「何、どういう意味だ。」
鳴沢が怒鳴ると同時に席を立ち、茶封筒を持ちながら課長の席に向かっていく鷺沼。そして茶封筒を課長に放り投げる。
「……なんだねこれは。」
「…1週間の休暇願いです。理由は鳴沢との仕事を望みません。もし課長が気に食わなかったら……『辞職願』と取って貰っても構いません。では失礼します。」
課長は止めず茶封筒を自分の引き出しに仕舞いこんだ。鳴沢は出て行く鷺沼を鼻で笑い飛ばしていた。
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署内の受付で波音と遭遇した。
「サギじゃない。どうしたの?」
「1週間休暇を貰った、もう帰る。」
「え、……どうして、なんで!」
「…………。」
これといった表情は波音は捉える事が出来なかった、いつものクールさ冷静さ、何も不思議じゃないいつも通りの鷺沼。一言二言交わしただけで署を出て行く鷺沼の後姿を見えなくなるまでみつめていた。
「あっ、波音さん!」
走って現れたのは佐貫だった。
「波音さん、今…鷺沼さんと話してませんでした?」
「ええ……でも……もう行ってしまったわ。」
「じゃあ今からならまだ追いつけるか…。有難う御座います、自分追いかけるんで。」
「ちょっと待って佐貫君。」
「……はい?」
波音は自分の胸に手を添えて言うか言うまいか迷っているようだった。
しかし鷺沼の態度より、彼に見えたらしくない表情が心に引っ掛かっていた。
「…サギ……何かあったの…?」
「あ……いえ…仕事上、色々あるんでそれと同じですよ。じゃあ自分追いかけるんで、」
今なら間に合うと急ぎ足で鷺沼を追って行く佐貫。
「サギ………。」
波音も仕事があるのでこのまま静かに署内へ戻って行った。只ならぬ感情を持ったのは久しぶりの事だった。

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