2009/6/12
カラスの出現場所ではカラスに殺されてしまった被害者の現場検証が行われていた。それらの指揮を取っているのが鳴沢警部補。鷺沼と佐貫の上司で、余り会話対象に入らない優秀なデカだ。
「あっ、鷺沼さん!」
不機嫌な鷺沼が現場に到着するや、佐貫に声を掛けられるが直後に鳴沢が近寄ってきた。すると突然鷺沼の頬に平手を叩きつけた。
現場内は騒然としたが、鷺沼は叩かれた事に疑問も怒りも感じないまま鳴沢を素通りし佐貫に声を掛ける。
「…カラスの足取りは掴めたのか?」
「はっ、あ、い、いえ……。」
佐貫は平手された鷺沼を見て安易な答えも出せずに、焦りと不安の表情の中、被害者の解剖記録を差し出した。片手で受け取った鷺沼は一通り目を通す。
「解剖記録に書いてある時刻、間違いないのか?」
「確かです! 鳴沢警部補が……」
ケチか文句か付けられたのだと鳴沢が鷺沼に寄って行った。
「…何か問題でも?」
「………間違っている。鑑識に回さなかった理由は?」
「何だと!! 鑑識によって調べられてこその記録だ、貴様は馬鹿にしているのかっ!?」
「ちょっと二人とも…!」
佐貫は二人の揉め事を必死で止めようとしたが、上手く行かず外に放り投げられてしまった。
揉め事は更にヒートアップさせていく。
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「前々から気に食わなかった。それに遅れてやってきて捜査に加わる方がどうかしてるだろ。」
「課長が行けと言っていたので便乗したまでです。遅れてやってきたではなく、課長から判断を受けて下さい。」
「……生意気な口だな!」
鳴沢は鷺沼の胸元を思い切り掴んで、握り拳をつくった手が思い切り頬に食い込んだ。バランスを崩して地面に倒れこむ鷺沼を、苛立つ瞳で見下した。
「どうしてお前が殺人課にいるのか不思議でしょうがない。………帰れ、貴様のような奴は目障りだ。」
「………それは此方も同じですよ。」
鷺沼は佐貫に自分の分の捜査を任せて来たばかりだが、直帰することにした。
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その後暫らくして時が流れ、20時頃、鷺沼の携帯に連絡が入った。
相手は佐貫だ。
『もしもし、鷺沼さん?』
「………なんだよ。」
『あの…今から鷺沼さんの家にお邪魔してもいいですか?』
「……土産あるんだろーな。」
『もしかして、…酔ってます?』
「切るぞ。」
『あああ、待って下さい!』
「きたきゃ来いよ、…酒忘れんじゃねぇぞ。」
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ピンポーン。
凡そ30分後に佐貫が訊ねてきた。大量のコンビニ袋を下げながら。
「本当に金遣いが荒いっていうか、人騒がせなんだから。お酒、程ほどにして下さいよ?」
「……うるせぃよ。」
「でも鳴沢さん…あんなに怒るなんて…」
「あいつは元々怒りっぽい。下手に刺激しても到底収まりきれない野郎なんだよ。」
鷺沼の鳴沢に対する口振りは鳴沢を良く知っていると言う口振りだった。
「あの、鷺沼さんと鳴沢さんって……」
「………同期だ。」
「うえええ!?」
佐貫が驚くのも無理は無い。
何せ鳴沢は同期の鷺沼をあっという間に追い抜き、警察署長から莫大な恩恵を手に入れ今に至る。刑事から警部になることは早々1年足らずで上がれるものではない。
そこには裏ストーリーがあるのだが、この事は本人達と一部の警察にしか知られていない。無論佐貫は知らない。
「鳴沢さんって頭いいんですね…」
「どういう意味だ?」
「だって自分は鷺沼さんが知的で鮮明な方とばかり思ってたら、それは鳴沢さんのほうだったんだって今気付いて。」
「……何がいいたい?」
少々不機嫌気味になってきた鷺沼が聞き返す。
「……あ、でも自分は鷺沼さんの相棒から離れることは決して…」
「………佐貫。」
鷺沼の視線は佐貫にショックを与えた。
「す、すみませんすみませぇええん!」
「………佐貫、酒が切れた、買って来い。」
札を握らせて買いに行かせようと企む。
佐貫は何となく居づらくなったのでパシリに出かけた。
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パシリに行かせてから鷺沼は暫らく酔いも酔いで横になっていた。
ふと目線上に一つの写真立てが目に止まる。
警察になりたての頃、同期の鳴沢と一緒に警察署前で撮った写真だ。
「………鳴沢、あの事件で一番変わったのはあんただな。」
思ってたことがポツりと言葉になって出ていた。
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何時の間にか眠っていたらしくテーブルの上には佐貫の書置きが置いてあった。
『お疲れの様なので買ってきたお酒は冷蔵庫に仕舞っておきました。健康には気をつけて下さいよ、冷蔵庫の中……何も入ってなかったのにお酒だけって。それはいただけないですよ?』
「何だあいつ、俺の親のつもりか馬鹿。」
朝方4時。冷蔵庫から紙パックの牛乳を取り出しコップに注いだ。その時携帯が鳴り響く。
「…………はい、」
『コードネームを答えろ。』
「………カラスだ。」
『OKカラス。先日は良くやった。今回はそう上手く行かないかもしれん。では依頼内容を伝える。』
それから20分くらいして漸く電話を切った。
時間が早いが署へ出勤するべく身なりを整え、牛乳を一気に飲み干したあと家から出た。
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署に向かう道中、波音と会った。
「サギ、おはよう。」
「…………ああ。」
「もう! 朝の挨拶くらいちゃんとして! 1日持たないわよ。」
「…朝から騒ぐな。頭に響く…」
「頭? 響く?? ……!? 酒クサッ。もしかして二日酔い?」
「……………。」
波音は先日の鷺沼と鳴沢の揉め事について実は聞いていたので心配はしていた。
しかし酒で誤魔化し出勤してきた鷺沼に対し、同情のカケラすら消えていた。
受付嬢の波音とは入り口で別れ、事務所に入った鷺沼のデスク上に課長からの伝言がおいてあった。
「…………鳴沢のことか。」
朝からこんなに不機嫌になるとは思いもよらず、恐らく先日鳴沢が課長にチクったのだろう。でなければ此処まで呼び出しの伝言はしないはずだ。
鳴沢がこんなに鷺沼より延びた警察であることは誰もが認め讃えたこと。しかし鷺沼からしてみればその事件のきっかけとなったことが既に悪夢の始まりだった。
「あれっ、早いですね鷺沼さん。」
「佐貫……胃薬持ってないか?」
「えっ! あ、待っててください。」
突然の発言に佐貫は事務所を一旦出て、胃薬を探しに行った。その隙に『カラス』の仕事を先に済ませておく。
自分のパソコンに入っている『カラスの資料』を無かった事にする。これはつまりカラスに中身を盗まれたとセッティングしておく為だ。そしてカラスがパソコンに触れたかどうかの指紋だが、指紋を拭き取ったように見せかけておくのも一つの手である。
ひいひい息をつきながら佐貫が胃薬片手に戻って来た。
「波音さんに借りてきました。鷺沼さんが苦しんでるって言ったら即刻渡してくれましたよ。全く…お酒の飲みすぎなんですよ、わかってます? 自分で。」
「悪いな。」
悪いといいながらも悪びれた様子を一切見せないで2錠頂いて置く。
が、胃薬はアリバイを誤魔化す為ではなく、単に佐貫を事務所から払う為だった。
そして改めてパソコンを起動しカラスの情報を引き出すフォルダを選択。勿論先ほど証拠を全て消した為に何も残ってない。
「佐貫。お前……」
「はい?」
「カラスの資料、盗んだか?」
「どうして鷺沼さんのところから盗まなきゃいけないんですか!?」
「……なくなってるんだよ、俺の引き出しから……」
「それってつまり……」
「やられたな、カラスに。」
佐貫が顔面蒼白になりながら鷺沼のパソコンからカラスの引き出しを探ってみる。佐貫自身のパソコンにもしかしたら転送されているかもと思いきや、結果何も出てこなかった。
この朝方の騒動は本日始まる騒動の幕開けに過ぎなかった。

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