2009/6/4
ファイナル −犯罪警察−
この物語はフィクションです。登場名、場所、全て架空とされています。
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長柄(ながら)警察署
殺人、犯罪取調室202号室。
「白状しろ! お前しかやってないんだよ。」
取調室で如何にも声を張り上げ、机をドンドン叩き怒鳴り散らす刑事が一人。
椅子に座っている犯人は聞き飽きた表情で顔を背け、小指で耳を穿(ほじ)る。
そこへ一人の男が鑑識を連れ、室内へ入って来た。
「鷺沼さん、やっと来てくれたんですね。待ってたんですよ。こいつ、何も白状してくれないんです。」
鷺沼(さぎぬま)と呼ばれた男は、犯人の目の前に腰掛けた。
「……鑑識。」
「はっ。」
指を鳴らし一緒に入って来た鑑識を隣に置き、証拠品を犯人の目の前に叩き付けた。
「最後の最後、ミスをしたみてぇだな。これがあんたを犯人を結びつける最後の証拠だ、しっかり目ん玉開きやがれ。」
鷺沼が鑑識に出させたのは犯人が逃走の際、現場に置き忘れた証拠品だった。ビニールに入っていた証拠品は犯人が犯行時に用いられた果物ナイフ。その刃には被害者の血がべっとりと付着していた。
「!!!」
犯人は明らかに動揺した。
「こいつが現場から発見されなかったら、俺たちはあんたを見逃していたかもしれない。あんたの指紋だらけのナイフ……見つけるのに苦労したよ。」
「…お、俺じゃねぇ! 確かにこのナイフを触ったかもしれねぇ! だが…俺じゃない、人殺しなんか出来るタマじゃねぇんだ。信じてくれ、なぁ、信じてくれよぉ…」
「……連れて行け。」
「はっ。」
部屋の前に待機していた警察官が嫌々首を振る犯人を連れて行く。室内には安堵感が漂い始める。
「鷺沼さん流石です。」
「……ま、ナイフ一つのお陰ってのもあるがな。それより佐貫、これから暇か?」
佐貫(さぬき)と呼ばれた男はコクリと頷いて見せる。
暇と言っても外出に出るわけじゃない、ただ一服するだけだ。
殺人課の刑事は殆どがサバサバしており大抵仕事を優先として、あちこち駆け回るのだが彼ら二人は、特に熱中する訳も無く自分の時間も大切にしている。
署内に設けられた喫煙所に入る二人。
すると先に来ていた人物が二人に声を掛けた。
「あら、取調べお疲れ様。」
「波音さんお疲れ様です。」
「………」
波音志保(なみね しほ)、署内の受付担当嬢である。署内の男性陣の半数は少なくとも彼女に惚れている噂があるくらい美人だ。
「サギ、お疲れ様も言わないのね。」
「………ふぅ。…ん? 何か言ったか?」
煙草の煙を吐き出しながら、目だけを波音に向ける。波音はそんな鷺沼のことを実は気にしていた。
だが鷺沼は一切として壁を作っているらしく、これまで告白を受けるも全て断ってきた硬派でもある。これまで告白回数は20以上と聞く。
こんな硬く無愛想な男がどうしてもてるのか、他男性陣は理由が分からない。
「ま、いいわ。素っ気無いのはいつもの事だしね。」
「波音さんは今、休憩中ですか?」
「ええ。軽食を済ませたところで…あと10分もしない間に戻るけど。」
佐貫と波音の会話が弾んでいるかと言えばそれは嘘である。佐貫が単に彼女に惚れているだけだ。波音は直に喫煙所を出て行った。彼女も色々忙しいのだ。
「ああ……波音さん、なんて素敵なんだ……。鷺沼さんと一服する度に会えるって素晴らしい…。」
「………ただのツッパリ女の何処が素晴らしいのか分からん。」
「鷺沼さんだけですよ? 波音さんの女性らしさが分からないのは!」
適度な一服を終えた二人は事務所へ戻った。
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事務所には課長がふんぞり返りながら二人の到着を心待ちにしていた。
「鷺沼君、佐貫君。ようやく待ち侘びたよ。」
「待ち侘びた??」
佐貫が課長に聞き返す間に、鷺沼は自分の席についてパソコンを立ち上げていた。
「課長、何に待ち侘びたんですか?」
「分からんか佐貫君。『カラス』だよ、カ・ラ・ス!!」
「…!? もしかして凶悪犯罪者『カラス』のことですかっ。」
課長と佐貫の話がヒートアップしている最中でパソコンを立ち上げていた鷺沼が、今月、市内に出没しているとされる凶悪犯罪者、通称『カラス』の目撃された場所を瞬時に印刷し、課長の机にそれを置いた。
同様に佐貫にも同じ紙を渡す。
「…うっ、うわぁ。こんなに出没してるんですか!?」
「最近じゃあ市内の至る所で目撃されているな、商店街や駅なんて人通りが多いのを知ってわざわざ足を運んでいる。……警察の目、云々よりも警察をおちょくっているとしか考えられない。」
「そうだな、鷺沼君の言う通り。で、此処で君らの出番って訳だ。」
嫌な予感がするのにも関わらず課長の話は一通り聞いた。
内容は二人に『カラス』の逮捕を命じた。すんなり捕まえさせてはくれないのは分かっているが、二人しか頼めないと課長は言う。
「鷺沼君、佐貫君。『カラス』に関する情報を集め、逮捕してくれたまえ。」
「……二人だけでですかぁ?」
佐貫はこの依頼に心なしか嫌気を差していた。
しかし何も動じず頷いたのは鷺沼だ。
「…ま、退屈しのぎにはなるんじゃないか?」
「退屈しのぎって…! 鷺沼さん、刑事でしょ。刑事に退屈なんて…!」
「………やるかやらないかは自分が決めればいい。俺は退屈しのぎに調べさせて貰うよ。」
課長に視線を移さないまま、印刷した資料をファイルに閉じて外出用鞄に入れる。
「じゃ、ちょっくら外行くわ。」
「え…鷺沼さん!?」
佐貫の間抜声を何とも思わず署を後にする鷺沼。
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外は快晴。外出には持って来いの天気だ。
署の前ではありきたりにも人通りは少ない。巡回中の警察が職務を終えて戻ってくる。
「……………退屈しのぎ…ねぇ。」
鷺沼は自分で言っておいて苦笑いを溢した。
そして適当に歩きながら先ほどファイルしたカラスの情報を取り出せば、署から離れた普段人が歩かない路地裏へ向い、棄てられているゴミの中にカラスの資料をビリビリに破き、棄てられたゴミ山へと落とす。
鞄から【仕事用】を取り出すと、身に装備した。
そう、警察で働く刑事こそが凶悪犯罪者カラスの正体。
鷺沼統夜(さぎぬま とうや)、表の顔は犯罪者を取り締まる刑事なれど、裏の顔は誰もが恐怖に慄(おのの)く凶悪犯罪者『カラス』なのである。
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市内、とある場所。
ゴミ処理場のみえる近く、一人の若い男がエアガンを向けていた。
「そ、そ、そ、そんな脅しに引っ掛からねぇ!」
「……脅しじゃない。そして寧ろ助けてやろうとは思ってない。」
「ふ、ふざけんなぁぁぁ!!!」
男はエアガンを発砲した。
だが発砲する前にカラスの構えた拳銃から煙が泳いでいる。男は急所を貫かれ死亡した。
「カラスに感情はない。…そしてカラスは自分しか頼らない。死に逝く者には何を言っても無駄だがな。」
カラスが人を殺した時に必ず置くものがある。それは自分が犯行を認めると同様の意味を持つ、カラスの柄が刺繍されている小さなハンカチ。
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「またカラスだとっ!!」
長柄警察署にて、課長が受けた電話からの情報だった。それと同時にして、鷺沼は帰宅する。
「……?」
「鷺沼君! ゴミ処理場から半径500m間にてカラスが現れた。殺人だ、奴は久方ぶりに帰って来たと思ったら殺人を犯した!」
「凶悪犯罪者ですから殺人は当たり前じゃありませんか。」
「鳴沢警部補が現場に行っている、佐貫君も其方に向かった様だ。鷺沼君は行かないのかね。」
鷺沼はパソコンを開くと沈黙を守り続ける。
退屈しのぎついでにしては、積極的ではない鷺沼の態度に課長はこう言った。
「命令だ、鷺沼君。君も現地に行きたまえ。」
「………了解。」
立ち上げたばかりのパソコンを放棄して席を外すと振り返りもせず、
「現場検証に鳴沢警部補が向かったから必要ないのかと思っただけです。…佐貫が向かったなら向かわざるを得ませんね…。」
僅かに苛立ちのある感情を催した発言だったが、命令なら行くまでだ。支度を済ませると急ぎ足で現場へと向かった。

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