2009/5/15
休日。
風紀委員の大半は休日でも学園に足を運ぶ者が多い。その半数は図書室で読書か、課題の予習復習を主に。
一般生徒が学園に来る事は殆ど無い。
しかし今日に限ってちらほらと目立っているようだ。
「今日、体育館で剣道部の練習試合があるみたいですね。だから一般生徒も集まっているのだと思われます! 以上が遠野のレポートでした。」
「剣道部ねぇ… どうされます神城委員長?」
「…行ってみるか。確か佐々木君とシャンも剣道部だったよね。」
「ああっ! 忘れてました。行きましょう行きましょう。」
どう言う事か知らないが遠野がやけに楽しそうだった。
体育館にかなりの人だかりが出来ている。
入るなり、キャーと黄色い声が聞こえてくるがシツキは全て無視した。
「あ、佐々木君だ。」
「今試合中のようですね。」
佐々木衛と対決しているのは高身長で細身の相手だ。面をつけているので誰とは判定出来ないが、かなりのやり手であると感じた。そして何故か、空知悠斗がその高身長の男を陰ながら応援している姿を目にした。
同じクラスの人だろうか。
「椿ーー、頑張れい! まもっちゃんも頑張れーー!」
二人分の応援者とは恐れ入る。しかし勝負はあっけなく佐々木が負けた。
「いたたた…。やっぱり僕には無理ですね。さすが椿さん。」
「鍛錬すれば何事も上手く行く。…またやろう、佐々木。」
面を外した顔はシツキの脳裏に浮かんだ一人の男だった。
佐々木と対面している椿は、瞬間的にシツキの瞳を槍を刺すのと同じように射抜いて見せた。シツキはまるでαが自分に迫ってきたと同じ位、男に対して恐怖心を抱き立ち眩みを催した。
「大丈夫ですか、委員長。」
ミストがシツキの身体を支えた。
「あ、ごめん。ちょっと座ろうかな…」
その場に腰掛けても射抜いた視線が気になって練習試合を見るところではなかった。
そして大会は決勝戦。シツキを射抜いた男と、兄貴分のシャン・シャオの対決だ。
シャンを応援したいがシツキは完全に脳震盪を起こしている感覚から立ち直ることが出来なかった。情けないと思うがまさか一般生徒が自分を追い詰めるとは思ってなかった。彼こそ問題児の1人なのではないだろうかと思ったくらいだ。
勝負は案外早くついた。
シャンが狙ったのは胴、しかし運よく交わされて小手に食らいあっけなく終了。
『練習試合を制したのは、Cクラスの椿将史君です。おめでとうございます!』
優勝したからと言って特に何か贈呈される訳ではない。ただ、少し有名になるだけだ。
シャンが項垂れながらシツキに抱き付いてきた。
「………慰めてくれ。」
「良くやったと思うよ。また今度頑張って。」
棒読みで答えながら背中を撫でてやった。それだけで満足すればシャンは意気揚々と体育館を後にする。そしてギャラリーたちも一斉に体育館から去って行くのだ。残されたのは後片付けする部員たちと、問題児に優勝男、そしてシツキとミスト。遠野はシャンに付き添って先に戻っていった。
椿がシツキに視線を向けている。
同じだ。
凍てつく弓射るような鋭い視線。
αに近い力のある視線だ。
「あれ、えーっと……誰だっけ?」
空知がとぼけた顔で出迎えた。
「風紀委員でありSAクラスの神城シツキだ。」
「同じくミスト。」
空知はふふんと鼻を鳴らした。
「ああ、先日校庭で会った人だ! そっか、SAなんだー。頭いいんだ、羨ましい。でっ…その神城さんが俺らになんか用事でも?」
「………椿将史と言ったな、お前は……一体何者なんだ。」
椿はシツキの質問を無視して剣道着を取り外しにかかった。
「神城さん、良くわかんないけど友人を苛めないでくれん?」
「お前は邪魔だ。」
一瞬の視線が合った瞬間、空知はシツキの精神世界へ入り込んだ。
空間は色々な構造が複雑に絡み合いそれだけで精神を崩壊させていく。しかし空知はそうじゃなかった。当たり前の様に当たり前として普通に佇んでいる。
「すっげー… 不思議な能力使うんだなあんた。」
空知の言葉はまだ自分を表に出していない状態だ。
相手をからかっているとしか思えない仕草で精神世界を歩いて見せた。
「…不快感を感じないと言うんだな。」
「不快感って? トリックルームみたいなんだなー。へぇ…俺も見習いたいや。」
「そうか、なら痛みを与えてやる必要があるな。」
だがそんなシツキの言葉を無視して紅カトラスを抜いた空知がしたこと。
「今まで人型や異形なんて斬って来たが…、これも斬れるのかな。」
「……っっ!?」
空知が斬ったのは空間そのものだった。壁、床、複雑な構造こそしているものの周囲の空間を突然と斬り始めた。まるで能力の弱点を知っている、そんな感覚で斬っていく。
勿論空間を斬られれば斬られるほど精神が安定しなくなる。
シツキは深い痛みを味わい、刹那世界を解いた。瞬間の瞬きをし終われば、此処は体育館の中に戻ってくる。
現実世界へ戻るやシツキは片膝をついた。
「委員長!? どうしたんです、しっかりして下さい。」
「…何故だ… 何故…対処が分かる…! 空知悠斗…一時はリストから削除しようか迷ったが、矢張りお前は最悪な問題児。風紀を乱す…者!!」
今まで口を開かなかった椿が、空知が手にしている煌々と燃え盛る紅カトラスを見て核心を得た。そして椿自身も同じように蒼カトラスをその手に掴んだ。
「…風紀委員もこれまでだな。裏から学園を乗っ取るなど、最悪のすることだ。こっちは既に全ての情報を集めてる。公表も出来るが、それをすれば他校が空架を乗っ取るのも時間の問題。風紀の裏でなく、学園の裏を俺たちは捜査している。
お前達と戯れている時間はない。大人しく退くか、休学処分を受けるか…どちらがお好みだ?」
椿の瞳はシツキとミストを射抜いている。
「……学園の裏だと。そんなものある訳ない。」
「委員長…もしかすると例の……」
言いかけたミストを突き飛ばすシツキ。
「言いたいことは分かった。だが俺たちは退かない、退くつもりは無い。俺たちは風紀委員、学園の最重要たる生徒だ。教師も手が出せないほどの……! 捜査だと、笑わせる! 所詮裏を調べつくし、全てを公開するのだろう? させない…空架の異端児に、空架の捜査など言語道断。
……お前達こそ退かないなら…戦争だ。強者だけが望みを得る、戦争だ!」
シツキはそれだけ言い放てば体育館を飛び出した、後追うようにミストも去って行く。
一難去った後、椿と空知は剣を収めた。

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