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さて、随分と期間が空きましたが、コイツはビビったぜマンガ第2弾を紹介しましょう。
今回は「いじめマンガ界の首領」の登場です。

すえのぶけいこ・作
『ビタミン』
すえのぶけいこ先生は、去年ドラマ化された『ライフ』(別冊フレンド連載中)の作者で、強烈ないじめを取り扱うことで有名なマンガ家です。
ただの「いじめ」マンガじゃありません。
すえのぶけいこ先生は、いじめを通して社会問題を風刺する一方、逃げることの強さ、立ち向かうことの強さを痛烈に描ききっております。
この『ビタミン』は、それらのテーマが非常に綺麗にまとめられており、読了後は色々と考えさせられる作品です。
さて、物語を簡単に紹介しましょう。
主人公の佐和子は、進学率の高い中学校の3年生です。
イケメンの彼氏もちで、交遊関係も良好(のように見えるだけ。彼氏がいることを理由に、友達から遊びに誘われることはありません)。
髪型もちょっぴり校則違反している普通の女子生徒。
この彼氏がとんだ曲者なんです。
成績はかなりいいのですが、本当の意味で頭が悪い。
嫌がる佐和子と無理矢理セックスしたりします。
一応謝ったりするのですが、基本的にお子様なので理性が利かず、校内でも佐和子にセックスを迫ります。
佐和子はそれを拒みますが、彼氏は止まりません。
この男はケダモノです。いや、バケモノです。
その様子をクラスメイトに見られてしまってから、佐和子に対するいじめが始まります。
教室の黒板に「佐和子はサセコ」と書かれ、仲良くしていたクラスの女子からも冷たい視線。
居場所をなくした佐和子は彼氏に助けを求めますが、このガキは「相手は俺じゃない」と吹きまくり、佐和子に別れを切り出してしまうのです。
これによって、佐和子はますます「サセコ」呼ばわりされてしまいます。
仲が良かったはずの女子たちから、コンドームをダース単位で買わされる。
更衣室で裸にされて、身体に落書きされて写真を撮られる。
机がコンドームまみれにされる。
便器に顔を突っ込まれる。
などなど。
担任の先生に助けを求めますが、この単細胞も学校に傷がつくことを恐れ、見て見ぬフリ。
「今の若い人は心が弱いからなあ」
ですよ。
登校拒否になった佐和子は、両親との間にも軋轢が生じてしまいます。
佐和子の母親は、「学校へ行け」と言いますが、佐和子は行けません。いじめられていることだって言えません。家庭内でも荒れてしまいます。
誰も佐和子を助けてくれず、「明けない夜はないって誰かが言ったけど、今は明けない夜が欲しい」と呟きます。
これが、本作のテーマに繋がります。
そんな佐和子はある日、昔の文集に「将来の夢はマンガ家」と書いていたことを発見します。しかし、それは歳を追うごとに変化し「将来の夢は学者」となっていました。
そこで自分は、なんにも自己主張ができておらず流されてばかりだったということに気づくのです。
自分に素直になること、そして生きるためのビタミン剤として、もう一度マンガを描いてみることを決意します。
そうして、佐和子は少しずつ変化していきます。
部屋に引きこもってばかりいた佐和子も、リビングに降りて両親と一緒に食事するようになります。
そこに届いたのは、クラスメイト全員からの寄せ書き。
「今までゴメンね」と書かれていました。
元気を取り戻しつつあった佐和子は、勇気を振り絞って学校に向かうのですが・・・
世の中、ひどい奴らがいますよね。
これ以上書くと、オチまでいってしまうので割愛しますが、すえのぶけいこ先生が訴えるテーマとは、単に「いじめ」ではありません。
いじめというバックグランドを通して、それに対する社会の偏見を痛烈に批判しているのです。
世の中、いじめが原因で不登校になったり、周りにあたったり、自殺を計る人間がいます。
これは単純に「いじめる側、いじめられる側に原因がある」というだけでなく、それを取り巻く環境にこそが一番の原因があるとしています。
「不登校はよくない」「学校だけは出ろ」というのは簡単ですが、それによって何が生まれるのでしょう?
何も生まれません。
佐和子は、不登校になったからこそ、失っていた夢を取り戻します。
それこそが、彼女を自殺から踏みとどまらせるビタミン剤であり、それは誰しもがもっているものだと作者は訴えます。
たまたま佐和子にとって、マンガを描くことがビタミンであっただけなのです。
いじめられている人間は、なにも考えていないわけではありません。
死にたい人間はいないわけですから、不登校になったからには、必ずその環境の中で生きるための何かを見出そうとするわけです。
それに対して「不登校=駄目な人間」というレッテルを張り、押さえつけるという風潮が、今の世の中にも少なからず存在しています。
それはきっと当事者からすれば、想像を絶する苦しみがあるものだと思います。
本作品が生まれた背景には、いじめられている人にも生きる勇気と、逃げる勇気をもってほしいという作者の願いが込められていると思えてなりません。
ここでいう逃げる勇気とは、もちろん自分を死に追いやることではありません。
環境に立ち向かうことです。いじめをしている人間に直接立ち向かうということではなく、それを含めて自分を取り巻く環境に押しつぶされず、自己主張をして立ち向かってこそ、初めて自分は変われるというメッセージが含まれているのだと思います。
本作は、全編通して佐和子視点で描かれています。
周囲の心の声(モノローグ)は一切入っていないので、佐和子以外のキャラクターが何を思って行動しているかは悟れないのです。
「きっと佐和子の母親は、こんな気持ちなんだろうな」
というように、佐和子と一緒に読者も想像できる「激・感情移入システム」です。
だからこそリアルであり、ラストまで読めば、佐和子を通じて作者の想いが強烈にしみ込んできます。
そして、これを読んだあとは、誰もいじめなんて残酷過ぎてできなくなると思います。
こいつはビビったぜ!
興味がある人は、今すぐ本屋にダッシュだ!
ちなみに『ビタミン』は全1巻、一冊完結です。
買いに行くまでもないや。
という人のために、最後まであらすじを書きましょう。
できれば、ご自身の目で確かめてほしいのですが、簡単に書きますね。
これ以後、ネタバレ
クラスメイトの寄せ書きに感動して学校へ行った佐和子ですが、やはりそれはいじめの一環でした。
佐和子の机は教室の後ろに捨てられており、みんなから「ホントに来やがったよ!」と笑い者にされてしまいます。
せっかく元気が出てきたのに、落ち込む佐和子。
自殺を計ろうとしますが、母親に止められます。
そこでようやくいじめを告白。
それでも「マンガなんか描かずに学校に行け」と言われる佐和子です。
「学校に行かないと夢も見ちゃ駄目なの?」
と泣いて懇願。
母親もどうしたらいいのかわからず泣きます。
そのうちようやく両親の理解を得ることになります。
母親の気持ちも理解し、自分の気持ちも母親に理解してもらった佐和子は、決意を新たに泣きながら自分の体験をマンガにします。
「描くんだ。あたしを描くんだ」
このときの表情がすごく良い。
もう何度見ても泣きます。
負けたくない、絶対に逃げない、と誓いながら。
鉛筆の針が折れるほどの想いと共に、痛烈なメッセージを原稿に刻んでいきます。
そして卒業式。
両親は行かなくてもいいと言いますが、ここで初めて佐和子は自ら「行く」って言うんですよ。
学校では今まで通りクラスメイトたちから罵られますが、もうかつての佐和子ではありません。
自信と強さに満ちあふれています。
これは作者の強烈な筆力なのでしょうが、成長した佐和子と何も変わらないクラスメイトたちの対比が見事に描かれています。
彼らが非常にちっぽけな存在に見えてしまうんです。
不登校から両親の理解、一生かけたい夢を得た佐和子には、すでにクラスメイトは恐怖の対象、気を使わなければならない対象ではないのです。
逆にクラスメイトを脅してしまいます。
担任の先生にも「よく来てくれたな」と言われますが、「先生のために来たわけじゃありませんから」と一蹴。
佐和子はどうして卒業式に出席する気持ちになったのでしょう?
それは自分が得た勇気を本物にするためです。
人間は「ビタミン」を得ると、こんなにも変われるんだと、今までできなかった自己主張をするためです。
佐和子は壇上で卒業証書を受け取った瞬間、満面の笑顔で破り捨ててしまいます。
これが佐和子の自己主張でした。
体育館に集まった生徒や教師たちは、佐和子がとった行動の真意がわからず唖然とする中、後ろで静かに見守っていた母親だけが涙ながらに拍手を送ります。
佐和子は本当に変わったのです。
最後に佐和子は言いました。
「明けない夜はないって誰かが言ったけど、今はその言葉を信じたい」
あとはおまけ要素ですが、佐和子はしっかりマンガ家デビューしました。
人間の心をえぐり取ってしまうメッセージが込められた作品って、本当に素晴らしいですよね。

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