2009/7/28  16:28

最初の一歩!no.2  隣の虹に。



「あれでよかったのか?久成さんよぉ。」
 一旦教室に戻った三人。理央は二人に同好会設立条件を告げると、二人に勧誘を頼んだ。樹はアテがあるらしく、傷だらけの顔のまま走っていった。
「柴田が一人で決めた事だろ。………多分。」
「多分、ってねぇ………」
「でも、ありがたいじゃねぇか。」
「まぁ………なぁ。」
「それより、お前ポジションどこなんだ?」
「俺か?セカンドだ。守備は自信あるぜ。」
「根性なしが大丈夫なのか?」
「それは言うな。」
 残された英と理央の会話である。
 理央は大きくのびをすると、椅子に背を預ける。
 思ったより簡単に二人集まった。理央は、これならいけるかも………と思わずにはいられなかった。
「なんか疲れたなぁ………」
 英はどことなく表情は冴えなかった。
 その時扉が大きな音をたてて開き、英が飛びあがった。
「………ぁ、お。」
 扉から現れたのは、とんでもなく大きな男だった。それは、先程理央がぶつかった相手である。しかし、間近で見ると言葉を失うほどの迫力である。
「お前が久成か?」
「………お前こそ誰だよ?」
 英は佐久間の一員だと思っているのか、理央の後ろに隠れていた。
 理央はただ目の前の巨漢の男を見つめていた。すると、彼はくしゃりと顔を歪めた。
「野球同好会に入れてくれよ。」
「はぁ?」
 理央と英は声を揃えた。どうやら大男は笑ったらしい。その時、理央は大男の後ろの扉から樹が笑っているのを見た。
「なんだ………こいつのことか………」

   ★

「紅井修だ。」
「ベニー修?」
 四人は帰路についていた。
 見事に方向は一緒らしく、電車内で四人は今後について話していた。
「あと一人……なんだよな?」
 英がつぶやく。
「つっても五人じゃ野球出来ねぇけどな。」
 理央がつっこむ。
「でも、まぁ、活動は出来る訳だし………」
 樹がフォローする。
「お腹空いたなぁ………」
 紅井が腹をなでる。
「とは言っても、ろくな練習だって出来ねぇぜ。」
 英が無視する。
「俺たち二人は初心者だから、それでいいけど。」
 樹は気にする。
「バカ、俺らは違ぇんだよ。」
「晩御飯………」
「いや、こいつらが上手くならなきゃ、俺たちだってまともな練習が出来ない。それにお前だってブランクあるだろ。」
「そりゃあ………なぁ………」
「腹減った!」
 遂に紅井が叫んだ。
「お前なぁ、マンガキャラじゃねぇんだから、少し大人しくしてろ。」
 と、英。
 ふてくされる紅井に、樹はバッグからガムを取り出した。
「はい、紅井。」
 理央は怪訝に思った。
「同中じゃないのか?」
 奪うようにガムをとっていった紅井を見ながら樹は笑った。
「違う。席が隣なんだ。『し』と『へ』の間にそんなに人数がなかった訳。」
 あ、そう、と理央は投げやりに返した。
 樹は電車が止まったのを待ってから立ち上がり、じゃあな、と手を振り人混みに消えていった。
「あれ?ベニーは?」
 動き出してから、英は紅井がいないことに気が付いた。
「忍だな。」
 理央は感心した。
「あっ、俺の柿の種!くそっ、盗られたな………」
「スチールか………鮮やかだ。」
 英は鞄を放って座席に身を投げた。降参の意だった。

   ★

「おはよ。」
「はよ。」
 翌々日の朝、まりかは平然と久成家へと現れた。
(ったく、大した女だな。羨ましいよ。)
 理央はまりかの切り替えの良さに舌を巻いた。
「ねぇ、今日も勧誘?」
「あと一人だ。」
 まりかは鞄を取り落とした。
「もう八人揃ったの?」
 理央は鞄を拾うと彼女に渡した。
「いや、同好会には五人でいいんだ。」
 まりかは、なーんだ、とため息を吐いた。
「それじゃあ野球出来ないよ?」
「とりあえず活動出来ればいいよ。三年間で勝負だからな。」
 理央は軽やかに階段を登った。
「そんなこと言ってて大丈夫なの?高校野球でしょ?」
 改札を抜けて、ホームに立つ。
「甘くは見てねぇよ。」
「そうかなぁ。」
 その時、理央は人混みの中から忍び笑いを聞いた。
「そうだ、まりか。」
「何?」
 理央は大体の見当をつけてから言った。
「メンバー紹介するよ。」
 理央はそう言うと後ろを見ずに蹴った。
「痛っ!」
 英は額を押さえた。
「根性なしの坂本英だ。」
「いい加減やめない?それ。」
 英は赤くなったおでこを擦りながらにやにやした。
「流石理央、彼女持ちかよ。手が早いねぇ。」
 まりかはべー、と舌を出した。
「残念でした。私、幼馴染みなの。言うならお姉さんかな。」
 初対面でも気兼ねなく話せる所が彼女の魅力である。
「なんだよ、おちょくりやがって………ま、それでも好きって事はあるだろ。」
 にやり、と笑って英は逃げ出した。
「ごちそうさま〜!またな、理央!」
 理央はまりかを横目に見た。
「お姉さん、ね………」
「文句ある?」
 彼女は頬を赤くして笑った。
「俺の方が年上なんだけどなぁ。」
「私の方がしっかりしてるもん。」
 それに関しては、理央も異論はなかった。
「いや、しっかりした妹もいるだろ。」
 まりかはそっぽを向いた。
 理央はこの言葉の中に、昔の約束の存在を強く感じていた。

   ★

 早速授業が始まった。
 理央には苦手科目がない。もうひとつ言うと、得意科目もない。バランス良く出来る男で、全て人並み以上にこなす。
「あのぉ〜………」
 これも例外ではない。
「何?」
「久成くん………ですよね?」
 小さな、としか形容のしにくい少女が、理央の前に立っていた。
「あたしは上本桜。野球部のマネージャーやりたいんですぅ!」
 彼女は力んで言った。
「まだ部じゃないし………同好会ですらないんですけど………」
 彼女は聞いていなかった。
「あたし、こう見えて中学の頃野球部の監督だったんです。」
「監督?マネージャーじゃなくって?」
 はい、と彼女は頷いた。
「駒井西中です。」
「ごめん、去年の夏は出てないし、チェックもしてないんだ。」
 理央は思わず屈んだ。
「とにかく、一応部員扱いなんだから助かるよ。ついでだから、初仕事。一緒に交渉しに行こう。」
 理央は桜を後ろに歩き出した。
「あの、なんで去年出てないんですか?」
 桜が小走りになっているのに気が付いて、理央は苦笑しながらスピードを緩めた。
「去年は………少し事件があって、野球する気になれなかったんだ。」
「事件?───あっ!」
 首をかしげた彼女は、何もない廊下で転んだ。
「言わなきゃダメか?」
 はい、と手を差しのべた理央に、ありがとう、と桜は応えた。
「ううん。でも、気になったから。」
 職員室まで来ると、桜は笑顔になった。
「あと、何が足りないんですか?」
 顧問、と理央は言った。
「任してください!」
 桜は平らな胸を張ると、失礼しまぁーす!と中へ入って行った。
「氷上せんせぇ〜!」
 理央は甘ったれたその言葉を聞いて、扉を閉めた。桜に任せたのだ。
 二十分後。
「失礼しましたぁ!」
 桜が笑顔で出てきた。
「完璧です!氷上先生をおとしました!同好会設立ですよぉ!」
 理央は入学式の日の体育教師の顔を思い浮かべた。
「どんな手を使ったんだ。」
 桜はにやりと笑うと、
「色仕掛けですぅ………」
 とポーズを取った。
「あっそ。」
 理央が踵を返すと、桜は慌てて駆けてきた。
「嘘です、嘘つきましたぁ!面倒なこと、作戦、采配、全部あたしが責任持ってやりますって言ったの。一発おーけー♪」
「全部じゃない。半分は俺だ。」
 理央は桜に笑いかけた。
「いえ、任してください!大船………タイタニックに乗ったつもりでっ!」
 理央は顔をしかめた。
「大船はいいけど、それだと沈没じゃねぇか。」
 二人が教室に戻ると、待機している筈の英とベニー、樹がいなかった。
「大変だよ!久成くん!」
 すぐに、樹が荒い息で駆けてきた。ズレた眼鏡も直さないで、一気に喋った。
「坂本が佐久間に捕まって袋叩きにされてる。ベニーが応戦して俺は逃げれたけど、まだ二人は残ってる。助けてくれ!」
「どこだ!?」
 樹は叫んだ。
「駐輪場だ!」
 理央は教室を飛び出して走った。
「ど、どうしたの?」
 途中、まりかとすれちがったが、返事をしなかった。
 理央がそこへつくと、ベニーが囲まれているところだった。
「ストップ、ストップ!」
 理央は間に入った。
 途端、挨拶もなしに先制パンチが飛んできた。
「おい、何人いるんだ………?」
「十八だよ………多分。」
 口から血を流して英は笑った。
「まだ口利く元気あるんかぁ!」
 思い切り蹴られ、英は吹っ飛んだ。
「坂本!」
 しかし、間に邪魔が入った。
「あんたが久成理央?」
 理央はあからさまに面倒くさそうなため息を吐いた。
「何回言わせるんだ。自己紹介よりパンチが先か。」
 くくく、と声を押し殺し、男は笑った。
「度胸えぇなぁ。土屋の言う通りや」
 真っ赤な髪を立てた、ミュージシャンヘアー。左右で非対称すぎるピアス。左腕には手錠をあしらったリストバンド。派手過ぎた。
「俺は佐久間信行言うねん。よろしゅう。………こんなもんでえぇか?」
 次の瞬間、理央は左頬にストレートを喰らっていた。理央は混乱した。
(速すぎる!)
 次の左フックをなんとかかわしたが、体勢を崩した。
「つまらんなぁ………もっと手応えある思とったのに………」
 その瞬間、理央は回し蹴りを頭目がけて放った。
「ほぉ………やるやんか………」
 ひらり、とかわされたが佐久間の表情には驚きが見え隠れしていた。
「………理央っ!」
 振り返らずも、声の主が分かった。
「バカっ、まりか来んなよ!」
 とんでもなく負けん気の強い彼女の事だ。相手が誰であれ、不満があれば物怖じしないで文句を言う。
「おしゃべりしてる場合ちゃうで、自分。」
 真っ直ぐに迫る拳が頬を掠めた。
 その時だった。誰かの悲鳴に、佐久間も理央も振り返った。
「お前………」
 理央は思わず呟いた。
 入学式に窓から覗いていた顔だ。
「知り合いなん?」
 佐久間の問いに理央は首を振った。
「違う。」
 少年は無造作に鞄を放ると、首を鳴らした。
「あんたが佐久間か。」
 佐久間はいぶかしげに少年を見下ろした。
「自己紹介が先ちゃうんかい。」
「必要ないな。」
 見れば、あれだけいた佐久間のほとんどがうずくまっていた。
「向井くんですよぉ!ウチのクラスの。」
 興奮した桜が叫ぶ。
「一年坊か。今年は問題児の大量発生やなぁ………」
 佐久間はくすりと笑った。
「この勝負ヤメや。あっちの方がおもろそうやし。」
 そう理央に囁いて、佐久間は笑った。
 理央は肩をすくめた。
「なぁ、ボウズ。タイマンせぇへん?俺が勝ったら、ウチに来いや。負けたら、軍団の名ァ『向井』にしてあげるわ。」
 向井はふっ、と笑った。
「つまらないな、それ。僕は群れるのは嫌いなんだ。………そうだな、僕が勝ったら───」
 向井は理央をちらりと見た。
「───こいつらと野球やって貰おうか。」
「ハァ?なに言うとんねん。」
 答えたのは佐久間だったが、理央も同じ思いだった。
(何を考えてる?コイツ………)
 向井は冷ややかに言った。
「約束出来ないのか?」
 佐久間は一瞬表情を消した。
「いいだろう。」
 向井は酷薄に笑った。
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