初めまして、そしてようこそ。  僕たちの物語

ここにある話は…

まぁ、ね。

分かりやすいよう小説にしたつもりなので、(作文素人なので…)駄文なのはご愛敬。

 

よろしく付き合って下さい。
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2009/4/6

(無題)  僕たちの物語

朝陽が眩しい。
重い瞼が、それを認識するのに四半秒ほどかかった。
時刻は六時半。
圭太は気だるげに近くに置いていた薬に手を伸ばす。
精神安定剤に始まり、頓服薬など、強いものをこの時間に飲まないと、体が持たないのだ。
ズキリと痛む頭をおさえながら、圭太は薬を嚥下した。
そして力なく頭を枕へ落とすと再び微睡む。
しかし、頭に映ったヴィジョンに圭太は跳ね起きた。
笑顔。
甘い記憶。
そして───悲しげな顔。
大切なモノを失くしてから見始めた、夢だった。
もう、五年が経ったのだ。
傷痕に気付かれぬよう、それを隠し、笑顔という仮面を被った。
そんな痕跡(かこ)を、自分はまだ続けるつもりなのか。
ニヒリストとして、背負い続けるのか。
圭太は窓へと意識をずらした。
もうすぐ、六年目の冬を迎える───
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2008/11/2

孤独とは〜NO.1  僕たちの物語

4年生の春が始まる。
圭太はいつも通り、集団登校の集合場所となっている公園へと5分遅れで行く。
案の定、まだ遊具に群がっていた。
「はよ。」
銀鬼、なるゲームの真っ最中。
鬼となっている同級生の坂谷類に、圭太は声をかける。
「圭太も鬼やれよ。」
圭太は時計を指す。
「遅刻するぞ。」
すると類は向き直り、
「お前を待ってたんだろ!」
と若干怒りを込めた手刀を飛ばす。
ひらり、とかわすと、互いにニヤリ、と笑った。
類とは保育園から一緒だが、このおふざけはその頃からのものじゃない。
智が生まれると同時期に、今の家へと引っ越したのだった。
元々仲がよいわけではなかったが、そこは子供の力。
圭太はすぐに溶けこんだ。
「ほれ、行くぞ。」
一つ上の篠原優がバシリと圭太と類の頭を叩く。
この3人と2つ下の城田誠一の4人でつるむようになる。
ふざけながら登校すると、始業のチャイムがなるところ。
初日から遅刻する訳にもいかず、流石に走る。
4―1────
新クラスというのを忘れていた。
圭太は階段を駆け上がり、教室へ飛び込んだ。
「よぉ、圭太。」
クラスメイトのひとりが笑いながら話しかけてくる。
「せ、先生は?」
膝に手をつき息をつく圭太にニヤリと笑う。
「さあ?担任、誰になるんだろーな?」
圭太は思わず笑った。
新学期、進級という事は担任もしらされていない。
放送で始業式の指示が入るだけだった。
「悪ぃ、悪ぃ。危なかったな…」
圭太はようやく辺りを見回し、クラスの面子を確認する。
2クラスしかない為、確率的には半分程が去年と同じ人。
去年のクラスが嫌いだった訳でないが、どことなく、気分があがるのは何故だろう?
その時スピーカーから雑音が聞こえ、放送が入る。
『児童は9時までに体育館に座りなさい。』
圭太はゆっくりと向かう事にした。

「へー…アイツ、転校したんだ。」
麻利亜という、なんというか、相棒みたいなやつが転校したことをクラスメイトから聞いた。
彼女には完全に尻に敷かれていた。
彼女の想い人は類であったのだけれども。
自分では、そこそこ仲が良い方だと思っていたので、何も言われなかったことに少なからずショックを受ける圭太。
周りには好きどおしだと思われていたようだ。
確かに、下校はいつも一緒だったが。
「そっか、そっか。」
と、ひとり何かに頷く。
要は、動揺してるってゆう、あれで。
それに気付いて必死に隠すが、バレバレ。
と、実果が近付き、
「…また上靴踏んでる。」
と注意してきた。
こいつは保育園から一緒の超しっかり者。
頼りない、というよりだらしない圭太の世話役を進んでしてくれる、いわば、母。
「はいはい、ありがと」
その好意を無碍にしないよう、というよりうるさく言われたくなかった圭太は素直に従った。
「席に着きなさい!」
児童たちは、騒ぎながら席につく。
「はい、初めまして、山村です。最初に言いますが、女です。」
席につくやいなや、担任は話だした。
1、2、3年と先生に恵まれていた圭太は、初めて厄介な教師を迎えたのだった。

土日は野球。
サッカーはやめた。
どのみち、5年生までしか在籍出来ないチームだし。
圭太は次第に調子に乗り始めた。
「なあ。」
「……。」
無視、である。
休み時間、外で遊ぶのが普通。
しかし、圭太はその仲間から外された。
類が気遣わしげな視線を送ってくるが、特段、責める気にはなれない。
男子の中で、次第に女子も相手にされなくなっていく圭太。
好き勝手やっていたのだから嫌われても仕方ないのだが、理不尽に感じていた圭太は怒りを隠さない。
それが圭太を、余計に回りから孤立させてしまう。
6月が終わった時、圭太の周りには、誰もいなかった。
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2008/10/22

神に見捨てられし天使  僕たちの物語

その日は快晴。
絶好の行楽日和と言うやつだ。
圭太は天気予報から仕入れた新しい言葉を早速使ってみた。
あくまで、心の中でだが。
しかし、車に乗り込むと、そんな高揚感は完全に忘れ去られた。
「ほら、ビニール持って…」
自らが座っていた助手席を圭太に譲った母親は、やれやれと世話を焼く。
さりげなく水筒のカップにお茶をいれ口をすすげるようにしておく。
しかし、当の圭太はそんな気遣いに気付く余裕もない。
彼がビニール袋を気に入ったのかは知らないが、高速道路ではその廃棄物の処理に何度もサービスエリアに停まった。
彼らがそこまでして訪ねる場所。
兵庫にある母方の実家だった。
愛知にある自宅からは(圭太によって出された廃棄物の処理時間も含めて)約3時間半かかる。
そんな遠出が出来るのは、長期休暇のとれるとき…
つまり、春休みだった。
「ほら、ついたよ。しっかりし!」
母に背中を叩かれ込み上げてきた物を、なんとか抑える。
「うっ…ぐあー。」
大量の荷物を見てうめく圭太に、
「圭太、だいじょーぶ?」
と妹の愛が心配する。
「まなが持ってあげるー!」
青い顔の圭太は更に青くなる。
「待てっ、それは重いから俺が…」
圭太の心配は見事、的中した。
ガシャン!
あぁ…
やってくれたな…

なんで愛に持たせたの!
と理不尽な怒りをぶつけられた圭太だが反論する気力もない。
しかし、祖母に会ったところでたちまち笑顔になれた。
「圭太、ようきたな〜そんなぎょうさん荷物持って。落とせへんかった?」
落としたよ、婆ちゃん…
愛が…
呟きをため息に変え、明るく言う。
「じいちゃんも元気だった?」
昭和前期に生まれた人にしては珍しく、祖父は身長が高かった。当時は180abあったらしい。
少し大袈裟に話す祖母の情報なので確証はないが。
それでも170はあるし、見上げると首が痛かった。
「圭太は元気か?」
実は祖父には毎回ハリー・ポッターを買ってもらっていて、今回もその交渉をしなければならない。
圭太は頷くと、いつもの場所へようやく荷物を置いた。
部屋に戻ると父が挨拶していた。
「お義父さん、お義母さん、お久しぶりです…」
そんな会話を聞きながら冷蔵庫を開けるとなんとキリンレモンが!
神の啓示だ…と(ちなみにこれは某テレビ番組から)思った俺は、コップに注ぎ、一気に飲み干した。
すると、さっきまでの気持ち悪さが、すっ、と引いていくのが分かった。

─────っ…!

(……?)
キリンレモンを冷蔵庫に戻し、風呂でも入ろうかと思った時だった。
悲しげな、鳥の鳴き声のようなものが頭に直接鳴り響いた。
しかし、それは微かな音で、圭太は意識を風呂に戻そうとした。
「圭太。ここにバスタオル置いとくねー。」
次の瞬間、また鳴き声が、確かに聞こえた。いや…あれは泣き声だ。
ぱっ、と振り向くやいなや、
「婆ちゃん、ちょっと散歩してくるっ!」
そういいながら駆け出した。
祖母の戸惑った制止の声が聞こえたが、ごめんなさい。無視します。
圭太は夢中で走った。
理由も分からずに。
…やがて、圭太は静かな、雑木林にたどり着いていた。
「ここだ。」
確信があった。
躊躇わず入っていく。
さすがに薄暗いと不気味だ。
しかし、その中にひとつの花を見つけた。
否、それは少女だった。
木漏れ月明かり…としか圭太は表現できなかったが、差すそれに照らされた少女はあまりに神秘的で、美しく、幻想的だった。
ふと、何かが月明かりに反射した。
「ナ、イフ……?っ、はぁ!?」
遠目で分かりづらいが間違いなく金属の光沢だった。
圭太は恐れもなしに少女へ近付いた。
「おいっ、お前!?」
肩に触れる。
なんて細いんだ……っ?
少女は振り向き、虚ろな視線を圭太に向けた。
「何…?」
圭太はこの少女が口を利けたのが信じられなかった。
その瞳は、生きていなかった。
「どうするんだ、これで。」
圭太はナイフを取り上げる。
「死ぬのよ。」
予想していた答えをあっさりと言われ、圭太は思わずたじろいだ。
彼女は本気だ。
「…お、親が心配してるよ!」
彼女は表情ひとつ変えずに淡々と言葉をつむぐ。
「もう…死んでる。」
最悪の受け答えだ。
「友達は!?」
希望を探すように、けれど、それが薄い事を圭太は感じていた。
「いない。」
雰囲気でわかっていた。
しかし、どうにか引き留めないと───
「なら、俺が友達だから!」
自分でも、考えてもいなかった言葉だった。
彼女は首をかしげる。
「今から俺たちは友達。だから───えっと、名前は?」
唇が言葉を勝手に放つ。
圭太はそれに任せた。
「…令。」
小さく彼女は呟いた。
「えっと、だから、令が死ぬのは悲しいからやめて。」
滅茶苦茶だ。
見ず知らずの人間に友達だから、と何かを強要されるのは不快に決まっている…
「…分かった。」
「へ?」
自動のしゃべる機能をストップさせ、作戦を練っていたところ、この返事。
圭太は思わず脱力した。
「えっと…令?」
何?と言わんばかりに首をかしげる。
「俺は圭太。よろしくな?」
手を差し出す。
握手のつもりだった。
しかし彼女は、令はその手をじっと見つめる。
この状況はいささか格好がつかない。
手を引っ込めようと決断し、実行に移す。
しかし、令に手をとられた。
「よろしくお願いします。」
幼稚園児のようにスローペースな台詞。
なんだか、よくわからない。

帰ったら、こっぴどく母に叱られた。
当然と言えば当然なのだけど…
圭太はなんの弁解もしなかった。
久しぶりだったから、つい散歩が長引いた、と一点張り。
普段散歩などしない圭太なので、かなり怪しまれた。
圭太はおしゃべり…という訳でもないが、いらないことをペラペラ喋り、自爆する、というのが常だ。
しかし、この日はしゃべらなかった。
何かを思っての行動じゃない。
ただ、なんとなく。
それだけだった。
ペナルティに夕飯を抜かれ、その皿洗いを命じられた。
正直、かなり辛かったが、自宅でないので自重した。
「はぁ…」
ため息が洩れる。
しかし、それはどことなく甘かった。
ようやく皿洗いも終わり、手伝ってくれた祖母に、ありがとう、と笑いかけ、弟の智を抱き上げた。
生まれたばかりの智は5月に、ようやく1歳になる。
子供は好きだった。
特に、赤ちゃんとなると。
圭太は微笑みながら布団へと寝かせる。
智は眠いのかご機嫌ななめだった。
母に智を預け、今度こそ本当に風呂へと向かう。

「令は、と…って、家どこだよ…」
翌朝、同じく快晴。
圭太は朝食を平らげると、迷わず昨夜の場所へ向かった。
しかし、当然、いなかった。
こんなことなら昨夜に送ってあげればよかった…と思う圭太だったが、下心はない。
というより、邪な感情を抱く程、圭太は大人になっていなかった。
ただ、もう一度会いたい。
あの瞳が輝いているところをみたい。
それだけだった。
「お。令、い、たぁ?」
しばらくして、圭太は令を発見したが、異常事態だった。
二人の中学生に囲まれていた。
それも男子生徒。
馴れ馴れしく肩に手を置く。
そのとき、圭太の胸に強烈な怒りが湧いた。
「おい、っ!」
気付けば圭太は駆け出していた。
まだ中学生は気付かない。
「ぐはっ!」
足が背中目がけて、ひとりでに出ていた。いわゆる、飛びげりという暴挙。
圭太、と呟く令。
「なんや、しゃべれるんかい。弟か?」
蹴られてない方の男子生徒が平然と言う。
「令を離せ。」
男子生徒は圭太を無視し、令に顔を近付けた。
「令ちゃんていうんか。可愛ぇなぁ。」
怒りが燃える。
「離せ!」
詰め寄る圭太だったが、もう一人の存在を忘れていた。
圭太は土を舐めている自分に気付く。
「なめよって。」
じわり、と後頭部に痛みが広がっていく。
「ガキ相手に手刀見舞うか、普通…」
その台詞で、殴られたことに気付く圭太。
上手く起き上がれない。
「圭太…」
その時令が圭太を呼び掛けた。
(令…そうだ、…っ!)
必死に立ち上がると、面白そうに見返してくる。
「うわあああっ!」
圭太は彼らに飛び掛かった。



「だ、大丈夫だったか?」
公園に辿りついた二人は、ようやく息を吐いた。
あの二人は今頃悶絶しているだろう。
やっかいな事をしてしまった…
故意ではなかったが、自棄糞に放った蹴りが急所を直撃していた。
それに驚き、つまづいた俺は、もう一人にも急所へと見舞っていた。
息も落ち着き、圭太は令に向き直る。
「なんであんなヤツらに囲まれたの?」
未だに息の荒い令を見て、少し罪悪感が芽生える。
「分かんない。圭太探してたら、いた。」
なんだか片言だなぁ…と思う圭太だったが、単純に嬉しい。
「そっか。令の家、どこ?」
彼女は首をかしげ、
「あっち。」
と指差し答えた。
マンションだから分かんないんだけど…
しかし、圭太は気にしない事にし、彼女に案内させる。
家を知っておかないと会えないじゃないか、と言うことに気付いた為だ。
一軒家だった。
…方向、合ってたんだね…と圭太は肩を落とす。
彼女の家には松下、と表札がぶら下がっていた。
松下令か。とひとり心の中で呟く。そんなはずないのに、少し彼女に近付いた気がした。
彼女に続き部屋に入ると、飾られていない、殺風景なリビングが目に入る。
「……。」
なんとなく、彼女のイメージそのままで、なんだか寂しくなった。
「あのさ…。」
何、と首をかしげる。
出会ってから何度も見たこの仕草も、どことなく寂しく、哀しかった。
「俺…令を守るから。えっと、愛知県にすんでるから、なかなか会えないけど…友達だから。」
この子の笑顔が見てみたい。
この子を笑顔にしてみたい。
いや……してみせる。必ず。
圭太はそう心に誓う。
この決意表明にも、彼女はあまり反応しなかった。でも、少し戸惑っていたと思う。
必ず、守る。
この言葉に、彼は後々、苦しみ、悔やむ事になる…

 

その後、圭太は彼女に質問攻めをした。
なんでもいいから、彼女を知りたかったのだ。
「一人で暮らしてんの?」
「うん。じーも、ばーも、死んじゃった。」
「お父さんたちは?えっと…ごめん。」
「?」
「だからじーとばーと、一緒に暮らしてるの?」
「うん。」
「学校は…?行ってないの?」
「うん。」
「なんで?」
「うん?」
「なんで学校行かないの?」
「分かんない。」
「そっか…。寂しくない?」
ここまできて、初めて会話が途切れた。
令は小首をかしげる。
「えっと…ひとりは嫌じゃない?」
「嫌。」
消え入りそうな声で、けれどはっきりと言った。
ディスコミュニケーション。
けれど、話す事が嫌いなわけではないようだ。
「じゃあさ、しばらく一緒にいよう。あの、ここにいる間は。」
「一緒?」
初めて彼女の瞳が輝いた。
…気がした。
「そう。」
彼女は、一緒、と何度も呟き、うん、と答えた。

「あのね、えっと…」
彼女はさっきから、これを繰り返している。
子供みたいで愛らしく、思わず笑みが零れる。
「私、あの、ん〜…」
腕を組み、悩む令。
何か言いたいらしい。
と、突如閃いたのか、ぱっ、と顔をあげ、叫んだ。
「お腹空いた!」
圭太は思わず吹き出した。
なんとなく、彼女らしいな、と思った。
そういえばもう昼だ。
「そうだな。じゃあ、飯食ったらまた来るよ。」
え、え?ときょどる令。
なんだか小動物みたいだ。
身長は彼女の方が高いが。
鼻唄交じりで帰宅する。
「どこ行ってたの!一言言ってから行きなさい!」
雷が落ちた。

一応反省し、新しい友達と遊んでくる、と言ってまた飛び出した。
しかし、おばちゃんが来るから早く帰って来なさいと言われてしまった。
どうやら、また怒られる羽目になりそうだ。
「令───!うわっ!」
元気よく扉を開けると、令は玄関にたっていた。
「ど、どした?」
若干どもる。
「ひとり、嫌。」
圭太は困った。
「つったって、俺はここに住めねぇからなぁ…」
令の顔が曇る。
「その分…ね?」
圭太は、その分今週は一緒にいると約束した。
「ねぇ…」
しばらくして、部屋を物色していた圭太に令が話しかけてきた。
「どうした?」
圭太は答えるとソファーに腰を下ろした。
令はちょこん、とその横に座る。
「これ、見よ?」
星の図鑑だった。
圭太は話しかけてきた令に戸惑いながらも、のぞきこむ。
「…私、星、好き。」
ペラペラとめくりながら、どこか弾んだ声で令は言う。
「なんで?」
初めて見る令の嬉しそうな表情に、圭太も嬉しくなる。
「ばーが言ってた。死んだら星になるって。それに、綺麗。」
圭太は改めて彼女の横顔を見る。
色白の透き通った肌。
少し色素の薄い、茶色の大きな瞳。
淡い桃色の唇。
長く、綺麗な黒髪。
目を奪われた。
こんなに美しく、儚い存在に会ったことはない…
例えるのなら…彼女は雪だ。
今はまだ冷たく凍ったままだが、綺麗な雪融けを迎えられるように…
「圭太?」
気が付くと、見惚れていた顔が圭太を覗き込んでいた。
「えっ!?っと、ゴメン、何?」
彼女は軽く唇を尖らせ、
「圭太、どの星座が好き?」
と聞いてきた。
星座…
詳しくは知らなかった。
「…北斗、七星かな。」
令の顔が綻ぶ。
「一緒だね。」
ドキリとする。
幼い圭太にその感情を把握するのはまだできなかった。
「う、うん…」
らしくない。
自分でもそれは分かっていたが、案外心地よい物だ。
「やばっ!おばちゃん来るんだった!」
気が付けば6時。
外出禁止令など出されたら、たまったもんじゃない。約束が守れないじゃないか。
「令っ!またあしたな!絶対来るから、待っててよ!」
圭太はそう言うと祖母の家へと猛ダッシュした。


案の定、遅い、と怒られた。
しかし、遅れた理由は死んでも言わない。気恥ずかしかったのだ。
「圭太くん、欲しいものない?自由にとっていきや。」
怒られて、若干凹んでいる圭太におばちゃんは段ボールを指差した。
中にはコープの安売りなどで手に入れた物がぎっしりと…
その中に、ひとつ、惹かれる物があった。
「手作りストラップ」。
明日、一緒に作ってみようか…
そんな光景を想像している自分に気付き、苦笑した。
「おばちゃん、これ、貰うわ。」
しかし、圭太はそれを掴み、鞄に入れていた。
「どうぞ。せや、圭太くん、ピラフでも食べる?」
丁度腹の虫が悲鳴を上げたので、圭太は迷わず頷いた。

今日は朝から、曇天。
飯を残さず平らげると鞄をひっつかみ、外へ飛び出した。
扉をノックする。
昨日の反省点だ。
しかし、返事がない。
不吉な予感がして、ノブを回すと、空いていた。
「令、どこに…っ?」
あわてて入り、中を見回すと、彼女は机に突っ伏していた。
「……寝てる。」
圭太は彼女におそるおそる近付くと、その顔を覗き込み、寝息に気付くと一気に脱力した。
鍵くらい閉めろよと苦笑するが、なんとなくそれも彼女らしい。
ちゃんとその辺教えなきゃなと思う。
彼女はあまりにも無知だ。
「……。」
寝顔。
なんとなく、見てはいけない気がしたが、惹かれてしまい、覗き込む。
すぅ、と静かに寝息を立てる彼女の長い睫。まるで人形のように端正で───
「なっ……バカか、俺は。」
引き込まれるように顔を近付けていた事に気付き、あわてて引っ込める。
「…っ、ふぁ…」
その動作で、彼女は目を醒ましてしまった。
きょろきょろと、焦点のズレた視線が圭太を捉える。
透き通る程無垢な瞳に、少しの動揺が見えた。
「あ、れ…?圭、太?」
圭太は笑顔を作り、
「おはよ。」
と言った。
途端に彼女の動きがせわしくなる。
「い、いつ来たの。」
動揺する彼女は初めてで、子供っぽかった。
「ちょっと前。気持ちよかった?」
慌てる彼女をみて思わず吹き出す。
すると彼女は少し困ったような、怒ったような顔をした。
でもちょっとシーズーっぽい。
ひとしきり笑った後、圭太は例のストラップを取り出した。
天然石をテグスに通して作る。
そんな説明書きを今になって読む。
「一緒に作んない?」
ぴくっ、と顔を上げ、圭太を見つめる。
彼女は“一緒”と言う言葉に異常に反応する。
断れば拒絶されるのではないかと言う恐怖心と、単純に、誘われた嬉しさが入り混じるらしい。
それがなんとなく、嬉しいんだけど寂しい。
別にそんな事しなくたって一緒なのに、と思う。あくまで圭太の感じた事だけなのだけれども。
「作る!」
圭太は令に向かって微笑んだ。

作業が始まった。
まずは二つの色から選ぶ。
ピンクの『恋愛』、天然石。
青の『友情』、天然石。
彼女は…
「こっち。海の青。」
友情をとった。
ま、予想の範囲内だ。
そっちの方がらしくていいや、なんて思う。
本題の作業だが、難航した。
「読んで。」
「…こんなに本があるのに漢字読めないのかよ。」
彼女の家には本が大量にあった。
てっきり彼女が読んでいると思っていた圭太だった。
実際には読んでいたのだが、ふりがながふってあった。
とにかく説明書を読めない為に作業は難航。
圭太は小学三年生。
人並み以上に漢字は得意だったが、所詮は小学生。
「えっと…。てんぜんせきをえらび、ずのようにテグスに…。とおし、しっかりと…んでください。」
読めない所は誤魔化した。
正しくは「天然石を選び、テグスに通し、図のようにしっかりと結んで下さい。」だ。
大体わかったのか令は作業を開始する。
ちらり、と横顔を覗くと、令の顔には明らかな喜色が浮かんでいた。
彼女に見とれていた圭太は遅れをとっている事に気付き、作業を再開する。
「…令ってさ、いつから学校行ってないの?」
先程の漢字の件で、気になった圭太は手を休めずに聞いた。
「小学生の時の…3年生くらい。」
今の圭太の歳だ。
…は?
「ちょ、ちょっと待った!今、幾つ?」
小学生の時?
って事は───
「ん?えっと…15個目だよ。」
「石の数じゃなくて…」
マジボケの令につっこむ圭太。
「?」
首をかしげる彼女にため息を吐き、
「歳の話!」
と言った。
彼女は、あぁ、というように頷き、こう答えた。
「12歳。」
彼女は3つも歳上だった。
つまりは、中学生。
確かに身長はボロ負けだが。
大人びた表情を見せない彼女なのに…
「できた♪」
圭太の頭の中がそれで占領され、停止していると楽しげな声が聞こえた。
振り返ると、にこっと笑う彼女がいた。
初めてみる、笑顔。
それは天使のような微笑み。
四秒半、圭太は彼女に見惚れた。
「見て。」
その言葉で我にかえり、彼女の作品を見る。
「…ぷっ。」
彼女らしい。
キツく閉めすぎたのか、肝心の石の部分がいびつだ。
ついでに、中心の石だけ、やけにでかい。
「圭太は?出来た?」
圭太は自分の手元を見る。
年齢の話に頭を占領されていた間に、自分は仕上げてしまったらしい。
令の作品とは対照的に、整った形のストラップになっていた。
「……。」
それを見た彼女は微妙にむくれ、ぷい、とそっぽを向く。
圭太は吹き出しそうになるのを必死に堪えた。
「そ、それもなかなかいいじゃんか。」
笑いすぎで語尾が震える。
子供のように口をとがらせた令は、
「これ、圭太の為に作ったんだもん。交換だよ。」
と明るい口調で言う。
流暢な言葉に、言葉の意味はほとんど頭に入らず、圭太はなんとなく頷いた。

圭太はいびつな形のストラップを眺めながら帰宅した。
「え?明日ぁ?」
そこで圭太は予定が変わった事を聞く。
父の仕事の都合で帰らなくてはならなくなったのだ。
「明日の朝ね。だからもう準備しておきなさい。」
朝…かよ…
お別れ、言えねぇなぁ…
「なぁ、昼じゃダメ?」
「昼にはまた出なきゃダメなんだ。」
即答された。
圭太はなおも食い下がったが、大人2人対子供1人じゃ分が悪い。
渋々、承諾した。
圭太は広げてしまった荷物を纏める為に、部屋へと戻る。
(令…怒るかな?)
ため息を吐き、一人そんなことを思う。
「圭太、ご飯!」
圭太はもう一度ため息を吐くと、母の声に応えた。


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