天童荒太氏著
「あふれた愛」 を読みました。
天童氏の作品は、長編小説「永遠の仔」が有名ですが、短編もいけますねぇ。
本作は、「とりあえず、愛」 「うつろな恋人」 「やすらぎの香り」 「喪われゆく君に」の中篇4篇からなり、全作品を通して貫いているテーマは“愛”。
「とりあえず、愛」
磯崎武史には妻と一人娘のなつみがいる。なつみは一歳半で「パー」「ママ」と言葉を言えるようになり、毎晩、風呂へ入れるのが武史にとって至福の時間だ。転職した会社で大きな仕事を成立させた夜、遅くなって帰ると、沙織がうつろな表情で出迎えた。「わたし、なつみを殺しちゃう」
■夫が気付かない妻の苦悩、苦しみ、孤独。“俺だって頑張っているのに”という男の思い込みのエゴ。男性の読者なら、思い当たる節があるのでは・・・。胸が詰まる。
「うつろな恋人」
心の病を抱えた塩瀬彰二は、ストレス・ケア・センターに入所して治療を受けていた。近くのコーヒー店でアルバイト店員の智子という清楚な感じの少女と出会う。智子は緒方哲郎という無名の詩人を慕っていた。智子が見せた緒方が書いたという詩集には、眉をひそめるような言葉が書かれていた。
■これも男のエゴか。勝手に少女の身を案じて、少女の心の傷を深くしてしまう。悲劇的な結末へ・・・。
「やすらぎの香り」
心の病を抱えた二人、茂樹と香苗は半年の共同生活を、病院や家族から認められた。6ヶ月間毎日欠かさずに日記を書くことと、助け合って暮らすこと。1日も欠かさずそれが出来たら、結婚を認めようというのだ。
■心の病を抱えるに至る生い立ちや、周囲との軋轢、葛藤。思わず“頑張れ”と応援したくなる二人の同棲生活。
「喪われゆく君に」
コンビニでアルバイトをしていた浩之は、倒れた男の客が救急車で搬送された後、死んだことを知った。警察に提出した防犯用のビデオには、浩之が倒れた客を足で小突いたり、なかなか救急車を呼ばなかったことが映っている。不安を覚えた浩之は、死んだ客の妻、幸乃を訪ねた。
■男の思い込みと、未亡人の隠された思惑が、ミステリーの味わいとなって、終盤まで飽きさせない。