「もっと買えば良かった…」
天皇賞(春)で単複馬券を的中させた航介。
単複馬券がハマったときの常套句だ。
日曜の夜に航介の狭いバーで行われた祝勝会は、立ち飲みスタイルで。
常連達は、32万儲けた航介の振る舞い酒を期待していたのが、
「開業したてで切ないんだ。最初の1杯だけ…」
と実にしょっぱい。
かつては「ロブ・ロイ(スコットランドの義賊ロバート・ロイ・マクレガーの愛称)」と呼ばれ、ダイワメジャーが皐月賞を勝ったときには一流ホテルで安酒場の常連達と会食を。
ゼンノロブロイが秋のGTを三連勝したときは、生活困窮者に10万ずつの小口融資を。
ハーツクライがディープインパクトに勝ったときは、近所の母子家庭をくまなく廻り、サンタクロースをしていたモノだが…。
いつからかハリが小さくなってきている。
一勝負30万が当たり前だったものが今では10万前後。
一昨年、重賞47連敗という離れ業を喰らってから…。
「メイショウサムソンの気配がずいぶんと良くなっている」
と、狸小路のウインズでパドック映像を見て呟いたのは、航介。
それを聞き漏らさなかった水道屋の晴彦。
二着馬の単複で若干の儲け。
「天皇賞は実績のある馬で決まる」
これまた前日に航介が呟いている。
これで儲けたのは、おでん屋修行中の大沢。
人気馬3頭で決まった三連単は12万8千円の儲け。
地元ニィヨンの馬券師達も、航介の指南で、こまごまに的中させている。
天皇賞で討たれたのは、西6丁目のバー・ビーハイブの若き店主ヒロ坊だ。
ポップロックにドカンとハメ込んでのもの…。
それを知っている航介が、
「ようし、皆の衆。ココはお開きにしてヒロ坊の店でやるべし。勘定は俺が面倒見る」
そういって店を移るのに歩いているときに、儲けた輩が航介に金を差し出す。
馬券師達は義理堅いものだ。
GW中も休まず営業した航介。
仕事が休みの藤子が右端の席を陣取る。
大きな体で狭い店内を仕切る姿に微笑みを絶やさない。
GW最終日、火曜日の深夜。
藤子が誰もいない店内でオネダリ。
どうなったかは、想像に任せる。
金曜日の25時。
残業を終えた晴彦。
営業を終えたヒロ坊と大沢。
最近になって新しく自分の劇団を立ち上げ、稽古を終えたサラリーマン男優ナバケン。
「今年の3歳は、まったくわからんな。シャキッとしない馬ばかりだ」
晴彦が馬券の話題の口火を切った。
「荒れた方が面白いんでしょうよ。三連単の破壊力を風潮できるしJRAにとっちゃ願ったりかなったりですわ」
ナバケン。
「そのとおりだな。京都新聞杯はケンするぜ。新潟大賞典はハンデ戦だし。NHKマイルカップだって、何が起こるかわかったもんじゃねぇ。お遊び程度にとどめておくのが本当の勝負師ってものよ」
航介もクラシック戦線にはまったくもって興味を失しているようだ。
「クラシックは正直どうでもイイ。安田記念と宝塚記念に照準を合わせておくのよ」
ヒロ坊が
「ずいぶんと先が長い…それまで道楽で張っていたら、勝負の駆け引きを失してしまうんじゃ」
「テメェ、ずいぶんな口をきくようになったじゃねぇか…。俺に言っているのか?」
「…」
「抜けた馬がいないクラシック戦線は、より調教状態や当日の気配が重要になってくるだろう。その場でこれだと思った馬がいたら張り込むことだってあるさ。俺が間抜けであればオマエが言うように駆け引きを失することもあるだろうがな。こちとら無職渡世でこの前まで食いつないできたんだ。まぁ俺の実力を見てな」
「ほう…んじゃ、今週はどんなもんよ」
と晴彦
「うーん…。2歳の頃から狙っていたブラックシェルだが、なんでまたここに…ダービーならばと思っていたんだが。皐月賞からNHKマイルCへの臨戦、二週間じゃどうにもこうにも。ここは無理っぽい。NZTのサトノプログレスか毎日杯のディープスカイのどちらかと思うんだが…あんたは?」
「俺は、早くから見初めたサダムイダテンでハメ込むぜ!なんでも岩田がつきっきりで調教しているらしいし、体の手入れやブラッシングとかもしてるらしいぜ。マイルで爆発ってことよ」
「輸送がダメなんじゃねぇか?血統も地味だし…。ないと思うぜ」
フテる晴彦、相変わらずメモを取る大沢、ナバケンは航介の話しに深くうなずいている。
なにか言いたげだが、航介に怒られてショゲ返っているヒロ坊。
それを見て航介がヒロ坊をあごでしゃくる。
「あっいや…今年の3歳はちょっとレベル的にイマイチどうなのかなと思っていて…それで…近走充実している馬が有利だと思います。青葉賞を勝ったAコマンドに毎日杯で完勝しているディープスカイで堅いと思うんです。あと、実はマイルが適距離なんじゃないかと思うのがレッツゴーキリシマです。この馬タフな馬だと思うんですよ。二歳時から実に堅実で…心情的にはこっちを買いたいんです」
「そうよなぁ、サトノプログレスは中山競馬場で内々に運んでロスなしで恵まれてたからなぁ。でも乗り役が人気の時は勝てない四位じゃなぁ」
と、晴彦が助け船。
「33秒の末脚を使った馬はディープしかいませんね」
ディープスカイに気がありそうなナバケンが言う。
「でもやっぱり四位は買えねぇよ。ブラックシェルも後藤に乗り替わってハマる可能性がないともいえねぇけどな。やっぱり横山典弘のサトノプログレスだな。先行馬だと思いがちなんだろうが、NZTは中山競馬場で勝つための乗り方をしただけ。前々走で後方一気を決めている。しかも中山競馬場でな。ハイペースになるだろうが折り合いに心配がないし、今回も最内枠でロスなく運べる。最後の直線で外を回すことなく、内を捌ききればイケると思う。横山の乗り方次第!」
「大将、他にありそうな馬は?」
大沢が手広く構える腹づもり。
「馬券買うくせに競馬新聞を買ったことのない大沢君よぉ。ノリで博打うって楽しいかね」
「誰にノルかってのが面白いですよ。三連単5頭ボックスで買ってるんですが、5頭を選ぶのはなかなか難しいものっすよ」
「しゃーねぇヤツだなぁ。さっきの3頭に、そうだなぁ…ヒロ坊のC、短距離重賞を勝っているMとかかな」
「大将も買いませんか?」
「結構…競馬は勝つ馬をあてるゲーム。二着や三着には興味はないんだ。たまに迷ったときにワイドは買うけれど一頭にこだわってみたいんだ」
「素敵ですよ。競馬はロマンですから」
「黙っとれ。クソガキ!負けても笑ってられるヤツだけがロマンだなんて笑ってるんだ」
「競馬は投資そのものよ。不確定要素があまりに多すぎるが立派な投資なんだ」
またまたショゲ返るヒロ坊だった。
●NHKマイルカップ(GT)
◎サトノプログレス(横山典弘)
単勝@ 2万円
複勝@ 5万円
馬単@→C 2千円
@→DHM 各1千円