「すまんかったなぁ・・・流れを作ってやれなくってよぉ」
「なに言ってんすか、勝手に馬券乗っかって、外れたからってショボ暮れて、あげくに予想してくれた人のせいにするなんて最低最悪な人間っすよ。乗っかる乗っからないはこっちの勝手です、どうか気にしないでくんさいな」
札幌競馬場からの帰り道、航介と地下室のジンが帰路のタクシーの車内での会話。
プロキオンSは単勝乗って3着、航介の七夕賞は単複的中でこれを乗らず・・・札幌10Rは単勝で乗って3着、12Rは乗らずに1着と・・・ジンの乗り馬券がことごとく・・・。
乗れば3着、乗らねば1着・・・。存分に儲けた航介、ドッコシと負けたジン。
「来週がありますって・・・またまた乗りますから頼みますよ」
「懲りん奴っちゃのう・・・うし、メシいくべ」
モチのロンで航介のオゴリ。
ヒロ坊の店で飲み食いをして、互いに仕事へ向かった。
「マジでやべぇぞ・・・最近はオメェら以外の人影を見てねぇ・・・今夜は一般客で換算すると土曜日だってのにノーゲストだぜ。シャバい奴らが来るのも困ったもんだが、誰もこねぇとなるときついぜ・・・」
「いいじゃねぇっすか・・・このヤサグレた感じは相当好きですけどね。これが好きでセッセと働いた金をココで使っているのが大満足なんすわ。ココに来るときは、オレら以外の客がいないことを祈ったりしてますモン。どうか耐えてください」
ジンが航介に言い聞かせるように説くと、ヒロ坊と大の字も同調して深く頷く。
「オメェ、働いた金って言ってもよぉ、好きなベースをひたすら弾いてるだけじゃんか・・・あっそっか、それがオメェの仕事か・・・いいなオメェ」
大の字の店の残り物、牛すじを、はしたなく音を立てて喰い散らかし、ニッカをゴクつく航介。
それに合わせて珍しくヒロ坊が競馬新聞を開いた。
「なんだ、オメェ・・・あんなに客がやってきてるのに金に困りだしたのか?馬券なんかやめとけ。買えば買うほど胴元のJRAが高笑いするだけだぜ。やや二割も持っていかれてよぉ。俺らは集まった金のぶんどり合戦に参加している虫けら同然よ」
「あれぇ・・・大将。この前は馬券で未来を買っているってカッコつけてたしょや」
と大の字。
「オレの馬券だけは特別なのよぉ。まぁ美学の域に達している」
航介が悦に入るのも無理はない。札幌競馬場では連戦連勝、競馬新聞をにらみ、パドックに返し馬。
午後から競馬場に馳せ参じ、1日に2〜3レース、パドックも返し馬も完璧なものしか買わないのだ。先週の土曜日は1レースだけだった。
さらに航介が調子づく。
「オレは本気で関東圏に越して競馬三昧かましたろうかと思ってる。こんな商売なんざ、待ちくたびれるだけでよぉ・・・男ってのは攻めんきゃなぁ、そうだろヒロ坊」
「そうですね。好きなだけやったらいいですよ。滅びたら骨は僕が拾います。泣いて戻ってきても僕が養いますよ」
ちょっとだけ顔を赤らめたヒロ坊。
航介もそれで正気に戻ったようだ。
「今週の重賞はアイビスサマーダッシュかぁ・・・カルストンライトオが勝ったとき以来、カスリもしねぇ・・・ラチを頼って走れる外枠の先行馬、そして、のめくって走ってしまう牝馬が有利なレースだな。ダッシュ力勝負ってわけだ。そんなハッキリとした傾向が掴めるようになって、乗り役もそれを意識するだろうから、意外にコースの外側は揉み合いになって、ターフの真ん中を真っ直ぐ走ることのできる差し馬のセンもあるぜ」
「だてに、外してませんねぇ・・・説得力があるモンなぁ」
大の字よ・・・褒めてるのか・・・けなしているのか。
それには無言で聞き流し航介が続ける。調子の悪い発言は無視することの多い航介。
「オレはブレねぇぜ。傾向だかなんだかしらねぇがよ、近走や調教映像で充実している馬が強いってことに変わりねぇのよ。そして今回、オレ様のお眼鏡にかなう馬が一頭いるんだ。外してJRAと赤の他人に大事なお宝を分捕られても後悔しないぜ。ブレないで戦うって事に意義があるんだぜ」
航介大好きのヒロ坊が、ウルウルとみとれている。
地下室のジンが何度もうなずいている。
大の字が、早く本命を言えとばかりに赤ボールペンをブルブルと振った。
「内田博幸のエイシンタイガーよ。栗東の坂路を真一文字に駆け上がってきたんだ。この三歳馬は短距離界で相当なものになるぜ。いかんせん開幕週、先行馬は追えば追うほど進むんだろうが、そこは腕っこきの内田博幸。奴が追えばヘッポコ騎手と比べて一完歩で15cmは違うぜ。うまいことに外枠の偶数枠を引き当てたんだ。なだめながらも勢いを損なわずに、絶妙なタイミングで追い出して14番枠を真っ直ぐに走ってけいばブッチ斬るって」
「ゴスホークケンはどうですか、猛然とダッシュ力だけで駆け抜ける直線競馬なら侮れないんじゃ・・・シャウトラインって馬も見所がありそうですよ」
ヒロ坊が予想の一端を披露する。
「んん・・・あの馬、コーナーあった方がいいと思うぜ。中距離を逃げっ切る馬だと思うし。調教もつまらん感じだぜ。シャウトラインねぇ・・・首が高いから福島向きなんじゃねぇか。雨が降るって話しだから抑えてもいいがな。開幕週で馬場のイイ新潟なら、綺麗に走るバネのある馬じゃねぇとダメなんだ」
そのときに航介は、なんでまた牡馬ばっかり名前を挙げるのかを問いただしたかったのだが・・・。
「牡馬のいいとこだけ拾って三連単ボックスとか凄いことになるんじゃ・・・内枠の枠連とか」
大の字が高配当を企んでいるようで、なにやらと悪どい顔している。
「ヒモは牝馬じゃねぇかなぁ。この時期の調教映像見ても牝馬の方が活気みなぎるって感じするもんなぁ。景気づけに馬単でも買っておくかぁ」
「荒れるレースって評判だから馬連かワイドにしたらいいんじゃないすか」
「大の字よ・・・競馬ってのはよぉ・・・勝つ馬を当てるんだぜ。保険なら複勝だけで充分」
最近になって航介一味にやってきた地下室のジンの手前、かっこつける航介。
ここんとこ随分と自信を取り戻しているようだ。
ここでも当たるようであれば、ずいぶんと弾みが付くってもんで・・・
●アイビス・サマー・ダッシュ(GV)新潟S1000m
◎Mエイシンタイガー(内田博幸)
単勝3万円・複勝7万円
馬単M→FKNOQ 各1千円

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