未校正……後日修正の上掲載します。
「なんじゃいこりゃ・・・くっせぇ店だぜ。おめぇ若いのに、こったら所で店やってるんか。シブイじゃんなぁ」
航介に同行しているヒロ坊が小さくうなずく。
ここんところビシャスに通い詰めの男がいて、いつもブツクサ独りでしゃべって独りで静かに笑っている。この数週間前、不得手だろうウイスキーを飲みながら寡黙にカウンターに佇んでいる30前後のアンちゃんがいて、航介が競馬場で馬券を撃っていた際に偶然会ったのだとか。
夕方、一緒に飯がてらビールを軽くやって、その夜もビシャスにやってきた。
男が言うには、つい最近脱サラして酒場を営み始めたのだとか。
それじゃって言うんで翌日に航介とヒロ坊が訪れたってわけ。
そのアンちゃんが営む得体の知れない酒場。
札幌の繁華街ススキノのド真ん中。周辺はソープランドやらキャバクラやらの歓楽街。
ケバケバしいネオン街の看板。そこに申し訳なさそうに、お粗末な木製の看板「地下室」
ほとんど真っ暗で、ろうそくが数本。聞くところによると電気がないのだとか。
よく見ると、バックバーに脈略なくボトルが並んでいる。客の注文どおりに仕入れるんだとか。
ラジオだけがながれている。
店主のアンちゃん、明るいところで見ると若かりし男なのだが、ここに入ると途端に影っぽくなり・・・イイ感じ。
航介がジンを、ヒロ坊も同じものを注文するとアイスボックスから溶けかけの氷をグラスに入れる。
しばらくすると、その男がガサゴソとやりだし、おもむろにウッドベースを弾き出した。
低音が店内に響き・・・ロウソクの火が揺らめく。
最初はぼやけて見えていたのだが、そいつとヒロ坊、そして自分の影がクッキリと見えだしてきた。
奏でるウッドベースに脈略が全くない。ラインというものがない。
若い女性客二人がやってきた。最初は騒がしかったのだが、やがて二人の影だけが映し出される。
グラスとボトルだけを用意して、そいつはまた奏でだした。
女性客の一人がロウソクの位置を少しだけ動かした。それが注文の合図なのだろう、少しするとコーヒーの香りがしてきた。
「オイ、オレの店にいるときはどうしてるんだ」
「勝手に自分のボトルを飲んで帰って行きます。鍵はしないし、ボトルキープだけなので。誰か彼か居ますし、つるんで悪さするような客はいないから。この帽子の中に席料の千円だけ置いて帰って行くんです。マスターがもしまた来てくれるなら好みの酒を仕入れておきますよ」
「ここではジンを飲む。いいとこ入れといてくれな。銘柄は任せるわ」
「僕にはブランデーをお願いします。ダニエルブージュという60度のシングルコニャックがあるんです。それを」
勘定を済ませて並んで歩く二人。
「あいつは、ただただベースが弾きたいだけなんだろうなぁ・・・」
「いやぁ・・・宝塚記念ですなぁ。大将、今週も頼みまっさぁ」
いきなりにやってきて大の字がデカイ声。
土曜日の深夜だというのに客は航介一味と“地下室”のアンちゃん。
「注文して口にして一息ついてからだろうがよっ。ったく・・・」
航介が大の字をしかると、晴彦が競馬新聞を大きく開いた。航介が舌を鳴らした。
「安田記念で必死こいてないディープスカイで正解だとは思うが・・・つまらんなぁ。あとは天皇賞組の上位3頭と金鯱賞のサクラなんとかでいいんじゃねぇか。大した儲けもでねぇだろうなぁ」
つまらなさそうに晴彦が頬杖つくとヒロ坊が見解を披露。
「実は天皇賞を勝ったマイネルキッツは相当強い馬だったりとかしませんかねぇ。調教映像だけ見ると、準オープンって感じもしますが・・・」
「よぉ、地底人はどうなんだ?」
黙ってみんなの予想を聴き入りながら表情を緩ませている“地下室”のマスターに航介が唐突に問いかけた。
「えっ、あぁ・・・えーと・・・よくわからんのですわ。つい最近死んでしまったアグネスタキオンの子供が出走するらしいですね。その馬かなぁ・・・このディープスカイって馬かなぁ。馬券はもう7,8年買ってないんで・・・どんな馬なのかぜんぜんわかりませんけど」
「ん?だって、オメェ・・・競馬場にいたじゃねぇか」
「あっ、えぇ・・・陽にあたりたかったのと新馬戦が見たかったのと。それに、皆さんが居るんじゃないかと思って。仲間に入れてもらおうと思ったんですわ」
「ふはぁ・・・おかしげなヤツだなぁ。やっぱりオメェは地底人だわ」
「このレース・・・どの馬が逃げるんですかね。ディープの四位とドリジャの池添は外回して差してくる競馬一辺倒ですから・・・超のつくスローペースで先行勢が俄然有利になりそうな・・・横山のスクリーンヒーローなんかは一発狙ってきそうですね。アドマイヤフジやサクラメガワンダー、カンパニーなんかも前目に来そうだから・・・」
ヒロ坊の見解だ。
「スクリーンヒーローはないと思う。調教映像の気配がなぁ・・・。調教で凄かったのはドリームジャーニー。今のデキなら斤量も克服できるだろうよ。得意の阪神コースだし、生涯最高のデキ、GTダッシュの最終チャンス。唯一の不安点は池添の乗り方、ウォッカが走らないんだから武豊に替わってくれりゃいいのによ」
「オラの軸はアドマイヤフジです。勝つとは思ってないけど、今回は好走しますよ」
大の字のお手馬。こっから一味の予想に乗って三連単を組み立てるんだと。
「オレは安田記念であわやウォッカ様に勝ちそうになったディープで征くわ。常識的に考えれば負けようがない」
「生涯最高のデキにあるオレの馬と、驚異の成長力を魅せるアンタの馬の一騎打ちが見たいもんだな」
「マスターの馬はステイゴールドの仔なんですねぇ・・・。好きだったんですよ・・・それに五枠の緑の帽子かぁ・・・三沢光晴のコスチュームかぁ・・・マスターの馬券に乗ってみようかなぁ」
●宝塚記念(GT)阪神S2200m
◎ドリームジャーニー(池添謙一)
単勝5万円・複勝10万円

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