2008/6/20
「鞄に闇を詰め込んで」
いよいよ明日、和歌山に向けて出発します。
伊予の国から、高速バスに乗つて、阿波の国へ。
阿波の国から、南海フェリーに乗つて、紀伊国へ。
ちなみにけふは、愛用の鞄に、旅の荷物を詰めました。
バスの切符や財布や折り畳み傘やメモ帳やデジタルカメラ等々。
そして最後に、私が鞄に詰めたのは、何を隠さう、ひとつの闇です。
と云ふよりも、鞄の蓋を閉めた時点で、其の闇は、鞄の中に現れます。
愛しい人を失つた絶望のやうに、其れこそ、何も見えない真つ暗闇が。
だけど、此の闇の中にこそ、私は、微かな光や未来があると感じます。
恋人にさよならをすることが、新しい出逢ひのはじまりであるやうに…。
事実、私のクレパス画は、五年前に、真つ暗闇の中から生まれました。
そして、私のお店も或る意味、闇の中から生まれたやうな気がします。
少なくとも、朝や昼間の光の中では、私の世界は生まれなかつたと。
当時私は、或る殺人未遂事件に巻き込まれて、極度の人間不信に陥り、
恋はおろか仕事をする気力もなければ、生きてゆく自信もなくしました。
そしてほとんど廃人のやうな生活の中で、いつそ死のうと思つてゐました。
が、そんな或る日、実家で偶然見つけたのが、サクラクレパスだつたのです。
其れと同時に、私の中に芽生えた、古いものへのノスタルジーと云ひますか。
其の存在はまるで、何も見えない暗闇にともる、仄かなともしびのやうでした。
其れ以来、私の生活は変はりました。あれから五年、かうして生きてゐるわけで。
つまり私の原点は、あの暗闇にあるわけで。暗闇をこそ、大事にしたいと思ひます。
だから私は鞄の中に、夢や希望を詰めるのではなく、むしろ、暗闇を詰めたいなと。
そして、其の暗闇の中から私は、新しいともしびや光を見つけたいと思つてゐます。
夜の暗闇に光る、鉱石のやうな光を。蛍光灯ではなく、裸電球のやうな灯りを。
さう云へば、暗闇以外にもうひとつ、大事なものを入れ忘れてゐました。
其れがぜんたい何なのかは、皆さんの御想像にお任せしますが…。

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