「塩の街 wish on my precious」
小説
■塩の街 wish on my precious/作:有川浩/絵:昭次/電撃文庫
いやいや、ぱっと見からすると、簡単な物語かなと思ってたんですけど。
読んでいくうちに、物語の深さというか、作り方の奥行きを感じました。
いいですねえ。
この、世界を救う云々と好きな人ただひとりを天秤にかける、みたいな話って結構好きですね。
BASTARDとか。
まあ、結局のところはそうだと思うのですよ。
世界のためではなく、自分が生きたい。
自分の周りの人を助けたい。
ってなると思いますね。
それを、主人公の1人である真奈ちゃんをとおして少しずつ少しずつ展開させていくっていう。
まあ、それにしても最近はいろんな発想があるもんです。
亡くなるとチョコレートになる物語もありましたが、ここでは生きたまま塩になってしまうという、非現実的なところから始まります。
あるとき突然地球上に降ってきた塩の固まり。
それと同時に、人があるとき突然、塩になってしまうという怪現象が起こります。
科学的検証においては、塩の固まりと人の塩化には因果関係が見あたらず、扱いに困っている。
次々と前触れなく人が塩になっていくという、恐ろしい現象が起こるため、秩序も崩壊してしまった世界の中で。
という感じですが。
物語はいくつかのパートに分かれています。
主人公である2人の男女を軸にして、2人が関わっていく人たちの物語として進んでいくのですが。
最初はぬたーっとしてちょっともてあます感じの物語だったりします。
途中、ある人物がこの2人の前に現れたところから、2人中心の物語に変わっていきます。
その人物は、塩化を止める自信まんまんなのです。
塩の固まりは日本に降ってきたときに中央政府を壊滅においやったので、事実上政治とかの中央権力は死んでる状態です。
一方アメリカ合衆国は広いからかどうかわかりませんが、中央が生きてて、塩の固まりと人の塩化にはなんらかの因果関係があると考えて、とりあえず実験台として日本の塩の固まりを爆撃しようとします。
日本では、例の人物だけは塩化を止める方法を考えて、実行するために2人の前に来るんですけど。
このあたりの作り方が巧妙というか、一応筋は通っているし、アメリカの考え方も現実っぽくておもしろいですね。
まあ、そこを例の人物が頭を使って取引を行い、結局は日本側が主導をとって塩の固まりを撃破するのですが。
ここも後々になってその取引内容を明かしているので、物語がうまく流れているんですよね。
また、主人公2人(秋庭、真奈)の考えというか気持ちというか、あり方の変化もよいです。
前半の3つのパートで他人と関わるのですが、そのときはそのときで終わるんですけど。
それが後半になってくると、すごく影響してくるのですよ。
例の人物についていって真実(とその人物の仮設)を知る度、真奈ちゃんは驚いたり失望したり悲しんだり怒ったり。
でもなんとか回復していって、自分の中で十分とはいえないまでも消化していく様子、そして自分がなにをするべきか(したいか)みたいなことを考えていくあたり、すごいなあと思いました。
途中まではたんたんと。
そのため、終盤での盛り上がり(秋庭が戦闘機で塩の固まりを撃破するシーン)が想像できなくて、このコントラストがよかったですね。
ここは2人の関係も、日本の未来も物語的な進展が一気に結ぶところであり、戦闘機奪取からアメリカ兵とのやりとり、撃破、脱出の一連はすごくスピーディで躍動感があってよかったです。
帰ってきた秋庭と真奈ちゃんの再会シーンもちょっとだけひねってあって、心配したんですけど。
まあ結局は2人はハッピーエンド、でも塩の固まりとの戦いはこれからば本番(例の人物の仮説は、ここではまだ実証されていない)、というところで終わり。
いやあ、途中からほんとに一気に読んでしまいました。
静から動への展開がすばらしかった物語でした。
あ、ひとつ書き忘れていた。
この例の人物ですが、入江といってもともと秋庭とは知り合いなんですね。
紹介文や扉絵にも載っていた台詞「世界とか、救ってみたいと思わない?」は印象的です。
でもそれより、この入江が、ただの普通の人間であることい、読んでいてびっくりしました。
まあ、昔から頭が切れるやつだったみたいですが、でも普通の範疇です。
特殊技能があるとか、特殊訓練を受けてたとか、実は塩と敵対関係である宇宙人だったとか、予知能力があるとか。
そういうのではなく、ただの人、ところがよかったです。
ただ生きたいと願う人間と、塩の固まりとの戦いだった、というところがよかったです。
で、いろいろと画策するしえらそうなことを言うけれど、実行するにあたって人の手を借りないと、世界を救うことはできない。
そこで秋庭のところへ来るんですけど、その経緯というか性格というか、そんなのを説明文ではなく会話から読み取るように書いてあるのもいいですね。
(H21.10.15)

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