昨日、NPOパーキンソン病支援センターのサロン交流会は50人の定員に対して80人以上の参加があったと聞く。これからは簡単に話を聞くことは難しいと思われます。以下
医道の日本に記載されている論文を転記させていただきます。
インターネット
http://www.bbbn.jp/~aoyama-y/parkinson/parkinsonf.htm
関西鍼灸大学神経病研究センター 鈴木 俊明・谷 万喜子
介護老人保健施設 コスモス楽寿苑 米田 浩久
関西医療学園専門学校 理学療法学科 金井 一暁
医道の日本2003年12月
はじめに パーキンソン病は、大脳基底核疾患の代表的なものである。大脳基底核が障害されると、随意運動(以下、運動)の開始と持続が困難になる。そのためパーキンソン病の理学療法では、運動をどのように始めさせるか、また、どのように運動を持続させるかが重要になる。
本稿では、パーキンソン病の理学療法の中でも運動療法に注目して述べることとする。まず、パーキンソン病の運動療法を行う際に必要な知識として、「大脳基底核機能と随意運動」について述べる。次に、「パーキンソン病の運動療法の基本的概念」、そして、「パーキンソン病の運動療法の具体的方法」について解説する。
大脳基底核機能と随意運動 大脳基底核とは淡蒼球、尾状核、被殻、黒質、視床下核の総称である。運動にかかわる大脳基底核の働きは、「この動作をしよう」といった運動の動機づけや意志、すなわち内部刺激に反応して運動を計画することに作用する。そして、運動が合理的に行われるような姿勢保持(運動準備状態、いわゆるモーター・セット)に働くことで運動の開始を促す。また、運動学習後はその運動を特に意識せず実行することに作用している。
パーキンソン病では、患者は立位・歩行をはじめとした種々の動作において、下肢の動きに伴う体幹の動きが円滑でないために、動作とともにバランスを崩すという反応が生じる。これは大脳基底核が運動準備状態に正しく作用していないことの表れである。
このためパーキンソン病患者の動作は運動発現が困難であることが特徴となる。しかし、パーキンソン病患者は、運動発現を促すために音やリズムのような外部刺激を用いると運動が円滑になるという特徴ももっている。具体的には、階段や横断歩道のようにリズム感のある視覚刺激や、メトロノームや号令によるリズム感のある聴覚刺激により、すくみ足が改善されるという現象である。
この現象は、外部刺激による運動に関与しているのが小脳であるために、パーキンソン病のように内部刺激に反応して運動を発現させる大脳基底核が障害されている場合、患者が小脳の機能によって運動を実行していることから起こると考えられている。これによりパーキンソン病では、音などの外部刺激をきっかけとして用いることで運動改善の可能性があることがわかる。ただし外部刺激を用いて動作ができるからといって、疾患そのものが改善したわけではないことを認識しておく必要がある。
大脳基底核は、学習された運動企画の自動実行に関与している。ところが、パーキンソン病患者は、外部刺激を用いた治療を行って歩行が可能になったとしても、運動の自動実行はできず歩行を継続することは困難である。そのため円滑に足を運ぶことが困難になり、いわゆる突進現象がみられることとなる。
次に、これらの大脳基底核の作用を理解したうえで必要な運動療法について述べる。
パーキンソン病の運動療法の基本的概念 前述したことからもわかるように、大脳基底核障害であるパーキンソン病の運動療法の大きな課題は、「どのように運動を始めて、その運動をどのように持続させるか」である。事実、運動療法を実施する私たちは、「なぜ、うまく運動を行うことができないのか」、「なぜ、その運動を持続することができないのか」がわからないと、質の高い運動療法を提供することができない。そこで治療者は患者の動作が困難な理由を、動作分析から見つけ出さねばならない。そのために必要な治療者の能力は、「動作を適切に観察できる能力」であり、解剖学・運動学の知識が重要となる。
では、実際に運動療法を行うために必要な評価過程2)と運動療法の基本的概念について述べる。パーキンソン病の運動療法は、なんでもいいから運動させるというものではなく、患者の主訴を解決できるような訓練方法を選択することが大切である。
そのため最初に主訴を聴取する際は、「痛い」、「動きにくい」という漠然としたものでなく、どのような日常生活活動が障害されているかを把握することが大切である。次に、その障害されている原因を分析することが必要になる。そのためには、実際の日常生活活動を治療者の肉眼で観察(動作観察)しなければならない。そして動作観察の結果から、問題となる機能障害(関節可動域制限、筋力低下、感覚障害など)を予測して、実際にそれを裏づける検査を行うことで問題点を明らかにする(これを「動作分析」という)。この評価過程はトップダウンの評価過程と言われ、「患者に本当に必要な評価のみを行うために、短時間で評価できる」という長所がある。しかし、動作観察をしても、その動作の問題点がわからない場合には、治療すべき問題点を見つけることができないので、適切な動作分析を行うためには、治療者は“センス”を向上させ、まず患者の動作を正常動作と瞬時に比較できるようになる必要があるだろう。
問題点が把握できれば、それを解決するように運動療法を行う。
例えば、歩行ができない原因が下肢の関節可動域制限である場合には、関節可動域訓練を行うが、それだけで終わるのではなく、関節可動域の改善に伴って歩行能力が向上するかどうかを確認する。すなわち、機能障害レベルの問題点を治療することで、問題となった日常生活活動がどのように変化したかを明確にするのである。実際の運動療法では、獲得したい日常生活活動(例えば、「歩行」)に近い治療場面(例えば、「立位」、「ステップ動作」)で関節可動域や筋力を改善できて、その結果として歩行能力の向上につながることが理想である。
パーキンソン病の運動療法の具体的方法 パーキンソン病の運動療法を行う際には、前述のように、問題となる動作を適切に動作分析できることが大切である。
ここでは典型的なパーキンソン病の症例として、歩行は可能であるが、第1歩目をうまく出すことができずに、歩いていると前方に突進してしまう患者(TT、女性、68歳)に行った歩行動作の改善を目的とした運動療法を紹介する。
本患者の立位姿勢の特徴は、筋強剛のために全体的に屈曲姿勢になっていることである。
特に肩甲帯屈曲、胸椎後弯の影響で体幹屈曲が強く、下肢では股関節と膝関節に屈曲を認めるため、全体的に屈曲位での保持となっている。また足関節は軽度底屈位である。
このような姿勢では、立位において足圧中心は健常者と比較して後方に変位している。なぜなら足圧中心が健常者と同様であれば(足圧中心が現在の位置よりも前方に移動すれば)、全体的に屈曲位である体幹は前方に傾斜して不安定になるので、患者はこれを避けるために、足圧中心を健常者よりも後方に変位させて姿勢を保持しているのである(図1)。
本患者と健常女性の開眼立位(立位保持時間15秒間)での垂心動揺解析(垂心動揺測定器アクティブバランサーM−100酒井医療)を図2に紹介する。本患者の全体垂心図は、健常者と比較して垂心のばらつきが大きくなっている。また、前後方向の動揺平均中心変位では、健常者は足部両果を結んだ線より19.1mm前方(図2には+19.1mmと明記)であったが、本患者は7.96mm後方(−7.96m)であり、健常者と比較して垂心は後方に変位している。
本患者は筋強剛により体幹の動きが不十分であるために、立位姿勢から歩行に移行する際、体幹が屈曲位のまま軽度に側方へ体重移動をする。またそれと同時に、股関節と膝関節をさらに屈曲させることにより歩行を開始している。しかし、歩行中では後方に変位していた足底圧が前方に移動するために、体幹が徐々に前方に傾斜してしまい、歩行の不安定性を増加させているのである(図3)。
このような症例に対する運動療法は、まず立位姿勢を改善させることから始め、その上で可能であれば立位場面で運動療法を展開する。
具体的には、図4のように足圧中心を前方に移動させながら体幹と下肢の伸展を促す。この際、足圧中心を後方に残したまま体幹と下肢を伸展させると、後方に転倒してしまうので、足圧中心を前方に移動させることが重要となる。また、治療者は一方の手を患者の胸骨部に、他方を脊柱中央部にあてがって、てこの原理を使って体幹を伸展させるのと同時に前方へ垂心を移動させるが、「できるだけ手を軽く保持してハンドリング(治療者の操作のこと)しなければならない」。と言うのも、治療者が手の圧を強くすればするほど、患者は治療者の手に頼ってしまい、体幹屈曲姿勢がさらに強くなるからである。これには注意を要する。
次にこの姿勢から、左右に垂心を移動させる。左右への重心移動は、歩行を円滑にするために必要であり、また正しい歩行の立脚期を獲得させるためには、体重を支持している下肢の動きが重要となる。
このとき、左右への重心移動はリズミカルに行うのではなく、足部の中央部分に体重が負荷されているのを確認しながら患者の身体全体を側方へ導き、重心移動を指導する(側方移動)。治療者によっては、患者の体幹を側方に傾斜させながら側方移動を行っている場面もみられるが、この方法では治療になるどころか、かえって歩行中に体幹が崩れることを学習させてしまう。
また正しい動作を獲得するための運動療法として、左右への側方移動を行うと同時に体幹回旋も誘導する(図4)。これも歩行動作を想定して、側方移動と同じように体幹を十分に伸展した状態で対側への体幹回旋を行うことが大切である。このとき、患者に意識させて体幹回旋運動を促すと、肩甲帯周囲筋や上肢筋の筋強剛のために両上肢だけで頑張ってしまうことがある。この上肢の頑張りは、上肢全体の筋緊張を亢進させるだけでなく、体幹筋、特に大胸筋や腹筋群などの屈筋群の筋緊張も亢進させてしまうため、注意が必要である。
次に、ここまでの運動療法で獲得した動きを歩行動作の中で再現できるようにするための前段階として、ステップ動作を取り入れる。ステップ動作は足を前後に開き、前に位置した足に体重をかけながら他側下肢を前方に出させる。このとき、今まで述べた動作での注意点が解決できているかを検討する。そして、最後に歩行を行わせ、治療前と比較して歩容が改善したことを確認できれば歩行に対する運動療法を終了する。
本症例では、運動療法後における開眼立位の前後方向の動揺平均中心変位は25.7mm前方(+25.7mm)であり、治療前と比較して明らかに前方へ変位し、健常者に近い結果になっていた(図2)。この結果、歩行においても治療前にみられた体幹前傾姿勢は改善し、安定して行えるようになっている(図3)。

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