僕は生まれたときから聴力が人並みをはずれていた。聞こえないのではない。聞こえすぎるのだ。今、どこにいるか知らない君の声だって聞こえるくらい。
小さい頃は自分でそのことに気付いていなくて、友達にも親戚にも両親からさえも気味悪がられた。「なんであの子は知っているの?」「遠くの方でしゃべってたのに」「ちょっとおかしいんだ。」僕の前では笑っている。でも、僕にはその声が聞こえていた。
自分をせめていたころもあったが、今ではコントロールしている。気を抜くとすぐに聞こえてしまうのだが。
今日も気を抜いてしまっていた。・・・いや、あまりに暇すぎて自分で聞いていたのかもしれない。
聞こえてくる。
みんなの笑い声・・・好きな人なんかを聞いて騒いでいる女子の声・・・ゲームの話をする男子の声・・・野球の音・・・などなど。
そんななか、ひとつだけ異様な声が聞こえる。
「・・・?電話かな?」
僕はその声に焦点をあわせる。
「情報屋wingです。情報をお求めですね。・・・はい。・・・はい。」
・・・情報屋?マンガとかでよく聞く裏商売の?
「情報屋」その言葉に僕の好奇心はかきたてられる。
僕は声のする方に行ってみることにした。昼休みはまだまだある。ひまつぶしがしたかった。
声を追ってきてみた場所は屋上。生徒は立ち入り禁止になっている。しかしこの声からして先生ではない。子供の声だ。
普段は鍵が閉まっている屋上への扉が少し開いている。とりあえずその隙間からのぞいてみた。
「はい。ではその子の居場所をお知らせすればいいんですね。・・・はい。」
あれは、同じクラスの坂本翔だ。クラスでも人気者で、大人な感じで女子にもモテてる。成績優秀。運動神経バツグン。みんなの相談人としても人気だから、確かにいろんな情報を知っているだろう。
でも、「あの子の居場所」って・・・?
「・・・はい。情報漏れなんてありえません。我が社のモットーですから。・・・殺してでも封じますよ。」
殺して・・・でも・・・?
翔がこちらをふりむいた。
「うそ・・・。」
翔は見たことないような顔で向かってくる。僕は恐怖で動けなかった。
ガッ!!
僕は壁に叩きつけられ、押さえつけられた。首になにか冷たいものが触れている。
「痛っ・・・」
・・・ナイフ?触れている部分から液体が流れた。血だ。
「なぜこんなところにいる?」
この耳のせいでいろんな声を聞いてきたが、僕でも聞いたことのないくらい低くて冷たい声で問われる。
「なぜこんなところにいる?」
僕は恐怖で声がでない。でも、言わないと僕は殺されるだろう。言っても殺されるだろうが。
僕は勇気をふりしぼった。
「・・・き・・・きこ・・・聞こえたか・・・ら。」
「聞こえた?聞こえるわけないだろう。大声はだしていないんだから。オレの情報をどこで手に入れた?」
「・・・・だから・・・聞こえた・・・んだ。・・・僕の耳・・・変・・・だから・・・。」
自分で言って涙がにじんできた。恐怖も重なったからかもしれない。
翔の顔には驚きがまじる。
「どこで聞こえた?」
翔の表情が少し和らぐ。
「え・・・。教室・・・。」
「・・・使える。」
翔はニヤリと笑って、僕を解放した。とたんに僕はへたりこんだ。
「お前は使えそうだから生かしといてやるよ。でもオレの言うこときかなかったらそっこーで殺すからな。」
いつもクラスでは大人びて冷静で優しい雰囲気の翔がその時はいたずらが大好きな子供みたいに無邪気に笑っていた。本当の翔はこっちのような気がした。いや、翔だけじゃなく、その無邪気な姿はだれもが持っているものだろう。
「まぁ・・・とりあえず最初の命令な。さっき聞いたことは絶対他言無用!!」
「わかった・・・。忘れるようにするよ。」
「忘れろとは言ってないだろ。」
?どうゆうことだ。意味が分からない。僕はそれを表情で表現する。
「わかんねぇやつだなぁ。だぁかぁら!!お前聞いてたんだろ?オレが情報屋やってること!お前がその情報屋wingの社員2号ってことだよ!!」
僕は、クラスメイト翔の無邪気な一面を知るとともに、入りたくもなかった世界に踏み入ってしまった。

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