心の中にある「地図」
私たちは現実を自分のもつ「現実の地図」(Map of reality: パラダイムといったり、マインドセットといったりもするそうです)を通して理解します。しかし、多くの人は、「地図は現実の土地とは異なる」ということを自覚しないで、自分の心の中にある地図が現実を100パーセント表していると思ってしまいがちです。たとえば、自分のもっている「地図」が、人間どうしのお互いのつながりを軽視、ないしは深いレベルで意識できないものであると示している場合、その人の実際の言動はお互いが関係なくバラバラに存在しているようなものになるでしょう。しかし、心の中にある「地図」が全てのものは一つのエネルギーフィールドの中で影響しあっている、あるいは、つながっているという内容である場合、その人の言動はそれにそったものになるでしょう。
さきほどの量子力学の観点からの「すべての物事は一つのエネルギーフィールドでつながっている」というのは、人間のつながりを深く目に見えない次元で理解するための一例ですが、その次元だけではなく、もっと幅広い領域で哲学的に人間のつながりを深く明確に具体的に日常的に意識するための議論がなされるべきでしょう。自分のもっている他者とのつながりが希薄な「地図」から抜け出し、人々は深い意味で本来つながっているという現実を意識するために、私も含めてですが、さらに学びを進めていく必要があると思うのです。
なぜつながりが大切か?
そもそも、つながりを意識することがなぜ大切なのか、と考える読者のために、次の考え方を紹介させてください。
ビル・ハリス氏によれば、すべてのものはつながっているということを意識し、そして、自分の身の回りに起こることの多くは自分の選択の結果として起こるということを意識することができさえすれば、人間は自然と倫理的になれると述べています。つまり、自分の考えを行動に移した場合、すべてのものはつながっているので、それがどのようなインパクトを自分や他者や社会にもたらすかを明確に理解できると、他者から規則を与えられずとも、おのずから倫理的に物事に対処できるようになるといっています。具体的には、自分のムカツク相手を殴りたいと思っても、自分はその相手とつながっているので、殴ってしまうとさらにその関係を悪化させ、問題をさらに深刻にする(自分も相手も苦しくなる)ということが前もってわかると、殴るという行動には走らないだろうということです。
私が父親になってから3年がすぎましたが、親子のつながりというやつを毎日ひしひし感じています。特にここマウントアイザで娘が日本語を使うのは、主に私に対してなので、娘の日本語は私の影響をモロに受けています。私が無意識に寅さん風に使った言葉もそのまま何の抵抗もなく吸収してしまいます。ヌビア(注:私のパートナー)の使うスペイン語もしかりです。私は決して倫理的な人間ではありませんが、毎日こうしてじかに娘にインパクトを与えていることを意識すると、もっとましな父親にならなくてはかんなあと自然と思えてきます。
つながりが見える「地図」を求めて
では、どうすれば、無意識につくりあげた自分の心の「地図」を、人間のつながりを反映した地図にとりかえることができるのでしょうか? 私は学びによって、人間が本来もっている、状況やそれまでの習慣に流されないプロアクティブな力(主体的な力)を活性化させることが大切だと思っています。
「7つの習慣」で有名なスティーブン・R・コビー氏は興味深い視点を提供してくれています。氏によれば、人間には産まれつき、「自覚、想像力、良心、自由意志」という4つの「天賦の才」があるとされています。つまり、自分を客観的に見る自覚の力、そして、自分のしたこと・しようと思っているがどんな結果をもたらすかを想像する力、何をすべきかの価値を教えてくれる良心、そして、状況に流されずに良心に基づいて行動する自由意志です。私はこれらの力は無意識に活性化しないと確信しています。学習と経験(成功経験と失敗経験)によって、どんどん意識できるようになってくるのだと思います。
いいかえれば、学習によって(特に集団による学習によって)、自分自身がどんな心の「地図」をもっているのかを自覚し、その「地図」のためにどのような「現実」が自分の前にたち現れているのか、あるいは何を見落としてしまっているのかを想像し、自分がどのような方向であらたに地図を作成し(良心)、これまでの心の「地図」とお別れすることに躊躇しないで、あらたな「地図」を獲得する努力をする自由意志をもつことが可能になってくるのだと思います。
自分の古い心の「地図」を捨てて、新しい「地図」を書き上げるプロセスはかなりつらくしんどいもので、私たちは古いものにしがみつこうとかなり抵抗したりします。というのは、とかく私たちは心の「地図」をイコール「自分自身」のように感じるからです。昔の「地図」と分かれることは、まるで自分がなくなってしまうかのような怖さも伴ったりすることがあります。しかし、実際は地図はあくまでも地図であって、それは現実の自分ではないのです。私も日本で大学生だったころ、何回も議論の中で自分の心の「地図」を壊され、そのたびにそれこそ生まれ変わるつもりで、仲間に支えられながら新しい「地図」を書き換えてきました。特に私の恋愛の「地図」はえらく現実からかけ離れたものだったので、何回書き直したか覚えていないくらいです(笑)。
おわりに
マウントアイザにやってきてから、早5年目を迎えました。オーストラリアに来てから7年目を迎えました。私がやってきた当初の心の「地図」は、オーストラリアと日本の違いばかりを際立たせていました。しかし、こちらの大学で学び、結婚し、就職し、父親になる過程で様々なことを経験して学ぶ機会があり、今の私の「地図」は、どこにいっても結局人間は同じということを私に語りかけています。
それでは、また。
遠くオーストラリアの空より
モナカ寅次郎
参考文献
• Covey.S.R. (1989). The 7 habits of highly effective people。Melbourn: The Business Library.
• Harris, B. (2007). Thresholds of the mind. Beaverton: Centerpointe Research Institute.
• Ray, J.A. (2006). The science of success: How to attract prosperity and create harmonic wealth through proven principles (3rd edition). Carlsbad: SunArk Press.

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