イギリスでの連続殺人、ならびに大量殺人事件はアメリカの10分の1以下であるという。
その、稀なはずの殺人者の1人が、彼である。
ライアンはロンドンからかなり離れた田舎町で、労働者階級家庭の一人息子として生まれた。父親は気むずかしい完璧主義者で、家庭でも職場でも独裁君主ぶりを発揮していた。だが母親は世話好きのあたたかい性格で、一粒種の息子を溺愛した。
幼年期のライアンはおよそぱっとしない子供だった。背は低くずんぐりとして、成績はふるわず、運動神経も悪かった。無口で人とうちとけることがなく、友達は極端に少なかった。いじめられることもしばしばだったが、彼は歯むかうことすらしなかった。まるで、逆らうすべを知らないかのように。
だが母親はそんな息子のすべてを受け入れ、愛した。彼の欲しがるものならなんでも買ってやった。少年の関心はおもちゃの車から自転車へ、原付へ、オートバイへ、そして自動車へと移ったが、彼女はそのすべてを買い与えた。そして、銃も。
銃や自動車の力を借りて、無力な少年は「マッチョな自分」の夢をみていたのかもしれない。
イギリスでの連続殺人、ならびに大量殺人事件はアメリカの10分の1以下であるという。
その、稀なはずの殺人者の1人が、彼である。
ライアンはロンドンからかなり離れた田舎町で、労働者階級家庭の一人息子として生まれた。父親は気むずかしい完璧主義者で、家庭でも職場でも独裁君主ぶりを発揮していた。だが母親は世話好きのあたたかい性格で、一粒種の息子を溺愛した。
幼年期のライアンはおよそぱっとしない子供だった。背は低くずんぐりとして、成績はふるわず、運動神経も悪かった。無口で人とうちとけることがなく、友達は極端に少なかった。いじめられることもしばしばだったが、彼は歯むかうことすらしなかった。まるで、逆らうすべを知らないかのように。
だが母親はそんな息子のすべてを受け入れ、愛した。彼の欲しがるものならなんでも買ってやった。少年の関心はおもちゃの車から自転車へ、原付へ、オートバイへ、そして自動車へと移ったが、彼女はそのすべてを買い与えた。そして、銃も。
銃や自動車の力を借りて、無力な少年は「マッチョな自分」の夢をみていたのかもしれない。
ライアンが25歳のとき、父が癌で他界した。父親は病床で「自分で始末をつけたい」から枕元に銃を置いてくれ、と息子に頼んだ。一人息子は真っ青になって「銃はそんなことのために使うもんじゃない」と言い、これを断った。
父親の死後、ライアンの銃器コレクションは以前にも増してとめどもなく増えはじめた。
失業をくりかえしてばかりだったから、費用のほとんどは母親が出したものと思われる。口をひらけば車か武器のことばかりで、ほかのことは世間話すら満足にできないような有様にまで、この頃の彼はなっていた。
だが彼は苦しんでいた――現実と夢想とのギャップに。現実のちっぽけな、無能な自分と、彼が追い求める理想の自分には隔たりがありすぎた。しかし徹底的に打ちのめされ、等身大の己を彼に思い知らせてやれる人間はいなかった。友人はいなかったし、母親は甘やかすばかりで、本当に彼の自立のためになることなどしてはくれなかったからだ。
懊悩の毎日の中、ライアンに虚言癖がめばえはじめる。
いわく、ガンショップを経営していた。自家用飛行機の操縦免許をとった。軍隊のパラシュート部隊で活躍した。大金持ちの元大佐の後見人がいる。看護婦と近々結婚することになっている――。もちろん、そのすべてがデタラメだった。周囲の者すべてが、それらが全部嘘っぱちであることを知っていた。だが母親は息子を守りたい一心で、これとまったく同じ嘘を知人にふれまわった。
母親の知人たちは彼女に同情していたから、あえてこの悲しい嘘をあばくことはしなかったが、ライアンの同僚たちは違った。彼らは情け容赦なく彼を嘲笑い、嘘つき呼ばわりした。しかもそれはしつこく、長時間つづいた。
ライアンは激怒の発作を起こした。そのときはじめて同僚たちは彼が「常軌を逸した銃マニア」であることを思い出し、黙った。彼の復讐心をうすうす感じとった同僚のひとりが、彼がいつも銃を携帯していることを上司に報告した。そのせいかどうか、ライアンはじきにその職場を辞めている。
鬱屈をためこんだ青年の爆発は、1987年の夏に訪れている。
彼は森のピクニック場のそばに隠れ家を作っていた。そのすぐ近くに、ランチをひろげていた母子がいた。ライアンはその母親を森の奥に連れ去り、おそらくレイプしようとしたのだろうが失敗し、彼女を射殺した。彼はその死体を残して車で去り、ガソリンスタンドで満タンに給油したのち、そこでも発砲した。
それから彼は自宅に戻った。まず可愛がっていた愛犬二匹を撃ち殺し、そしてありったけのサバイバル用品と銃器を持ち、防弾ジャケットに黒のヘッドバンドという映画の「ランボー」まがいの格好をすると、歩いて出発した。行きがけの駄賃とばかりに、自宅に放火して――。
彼は地域の共有グラウンドめざして歩き始め、その間、見えるものならなんでも手あたり次第撃った。夫婦を撃ち、少女を撃ち、老婆を撃ち、犬の散歩中の男を撃った。またパトカーにも発砲し、巡査を即死させた。
彼は共有地の近くで警官隊に包囲された。が、彼は銃撃をやめなかった。そのとき、現場にライアンの母親が到着した。彼女は銃を持って立っている息子の姿を見、
「マイケル、やめて! やめてちょうだい!」と叫びながら息子に駆け寄った。
マイケル・ライアンは2発発砲した。どちらも命中し、母は道路にくずおれた。
彼は倒れた母に近づくと、至近距離からもう2発打ち込んだ。彼女はライアンの、8人目の犠牲者となった。
それからも犠牲者は続々と出つづけた。警察のヘリコプターがようやく到着した頃には、もう事件のあらかたが終わりかけていた。このときにはライアンは学校内にたてこもっていた。巡査部長が彼とコンタクトをとることに成功した。
この時点で被害者は延べ30人。死者15人、負傷者15人にも達していた。
「武器はあと何がある?」「銃が一挺、あとは弾薬だけだ」
それからライアンは、こう訊ねた。
「おふくろはどうした? 死んだか?」
巡査部長はこれに答えずはぐらかし続けたが、ライアンは自嘲したように、
「死んだよな。そうさ、そうに決まってる。――こんなの、なんかの間違いだ。悪い夢をみてるみたいだ。くそ、こんなことならベッドで寝てりゃよかった」
彼は弾倉を窓の外に放り投げた。事実上の投降であった。
「――おかしなもんだ。これだけ殺したってのに、自分の頭をぶち抜く度胸がない」。
だが結局のところ、彼にはその「度胸」はあった。
最後の一発を、彼は自分のコメカミに叩きこみ、死んだ。彼が死の瞬間に見つめ得たものは、果たして「理想の自分」だったのか「等身大の自分」だったのか。