みな無言で大きな石のそばに立ち止った。
アリーショアは石を見つめた。
「ねえみんな、僕はここで、ほかならぬこの場所で、みんなに一言話しておきたいんだけれど。
もうすぐ僕はこの町を去ります、たぶん非常に長い間。だからいよいよお別れなんです、みなさん。
このイリューシャの石のそばで、僕たちは第一にイリューシャを、第二にお互いみんなのことを、決して忘れないと約束しようじゃありませんか。」
と,石のそばでのアリーショアの演説が始まる。
彼は少年たちに言った。
「僕はひどくわかりにくい話をしますからね。だけど、やはり僕の言葉をおぼえていてくれれば、そのうちいつか同意してくれるはずです。いいですか、これからの人生にとって何かすばらしい思い出、それも特に子供のころ、親の家にいるころに作られたすばらしい思い出以上に尊く、力強く、健康で、ためになるものは何一つないのです。
少年時代から大切に保たれた、何かそういう美しい神聖な思い出こそ、おそらく、最良の教育に他ならないのです。そういう思い出をたくさん集めて人生をつくりあげるなら、その人は一生救われるでしょう。そして、たった一つしかすばらしい思い出が心に残らなかったとしても、それがいつの日か僕たちの救いに役立ちうるのです。
どんなに僕たちがわるい人間になっても、やはり、こうしてイリューシャを葬ったことや、最後の日々に僕たちが彼を愛したことや、今この石のそばでこうしていっしょに仲良く話したことなどを思い出すなら、仮に僕たちがそんな人間になっていたとしてもその中でいちばん冷酷な、いちばん嘲笑的な人間でさえ、やはり、今この瞬間に自分がどんなに善良で立派だったかを、心の内で笑ったりできないはずです!
みなさん、かわいい諸君、僕たちはみんな、イリューシャのように寛大で大胆な人間に、コーリアのように賢くて大胆で寛大な人間に、そしてカルタショフのように羞恥心に富んだ、それでいて聡明な愛すべき人間に、なろうではありませんか。
ところで、これから一生の間、いつも思い出し、また思い出すつもりでいる、この善良なすばらしい感情で僕たちを結びつけてくれたのは、一体誰でしょうか、それはあの善良な少年、愛すべき少年、僕らにとって永久に大切な少年、イリューシェチカにほかならないのです!
決して彼を忘れないようにしましょう、今から永久に僕らの心に、あの子のすばらしい永遠の思い出が行き続けるのです!」
「そうです、そうです。永遠の思い出が」少年たちが感動の面持ちで、甲高い声を張りあげていっった。
「カラマーゾフさん、僕たちはあなたが大好きです!」どうやらカルタショフらしい、一人の声がこらえきれずに叫んだ。
「僕たちはあなたが大好きです、あなたが好きです」みんなも相槌を打った。多くの少年たちの目に涙が光っていた。
「カラマーズフ万歳!」コーリャが感激して高らかに叫んだ。
「そして、亡くなった少年に永遠の思い出を!」感情をこめて、アリョーシャがまた言い添えた。
「永遠の思い出を!」ふたたび少年たちが和した。
「カラマーズフさん!」コーリャが叫んだ。「僕たちはみんな死者の世界から立ち上がり、よみがえって、またお互いにみんなと、イリューシェチカとも合えるって、宗教は言ってますけど、あれは本当ですか?」
「必ずよみがえりますとも。必ず再会して、それまでのことをみんなお互いに楽しく、嬉しく語り合うんです」半ば笑いながら、半ば感激に包まれて、アリーショアが答えた。
「ああそうなったら、どんなにすてきだろう!」コーリャの口からこんな叫びがほとばしった。
「さ、それじゃ話はこれで終わりにして、追善供養に行きましょう。ホットケーキを食べるからといって、気にすることはないんですよ。だって昔からの古い習慣だし、よい面もあるんだから」
アリーショアは笑いだした。「さ、行きましょう!今度は手をつないで行きましょうね」
「いつまでもこうやって、一生、手をつないで行きましょう!カラマーゾフ万歳!」もう一度コーリャが感激して絶叫し、少年たち全員が、もう一度その叫びに和した。
(『カラマーゾフの兄弟』ドストエフスキー著 原卓也訳)
不朽の名作はこうして終わる。
魂の交響曲。その不思議な感動。
それが、ふたたびわたしをいつまでも強く深く包み込む。

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