俺には「行きつけ」のブラジル料理の店がある。
ブラジル料理店なのだが、
何故かそろいのオレンジの帽子とエプロンをした
男1人、女2人の店員がカウンターの中にいる…
「シュラスコ」とか「豚肉と豆の煮込み」の無い…
そして俺はというと、いつも焼き鳥とか唐揚げを買っている…
なんつーか、ファストフード店のような感じの…
それでもブラジル料理の店なのだった。
久しぶりに俺はそこに向かっていた。
しかし、そこに向かう道の途中には俺にとって嫌な場所がある。
店に向かって歩いていると、
道沿いの左側に動物を飼っている囲いが3つ並んでいる。
最初にある囲いと最後の囲いは記憶に残らないくらい印象が薄いのだが、
2つ目に現れる囲いが憂鬱でたまらないのだ。
その囲いの中には、何種類かの鳥が飼われている。
鶏、クジャク、七面鳥、ダチョウ、エミュー…
鶏を除けば、大型の鳥だ。
そして、その囲いの横を通るにはルールがある。
囲いの中から自分にちょっかいを出してくる鳥がいたら、
そいつの羽でも首根っこでもいいから素早く掴んで、
頭上で1回振り回し放り投げれば、
何とその鳥を自分ものにして良いという不思議でお得なルール。
それが何故に憂鬱なのか。
その囲いの横の道には野良犬達がいて、
気分が悪い事に、犬達もおそらくそのルールを知っていて、
俺の目の前で鶏をくわえて振り回したり、
藪の中に蛇を見つけて、それに囓りついて振り回したりしているのだ。
囓りついてむき出しになった歯によって、
犬の表情が笑顔に見えてしまい、
更に1回でいいというのに、
放り投げもせず何回も得意気に振り回している姿を見ると、
たまらなく憂鬱になってしまうのだった。
「ルールを知っている様でも、所詮犬は犬だな…」と。
そんな理由で何故憂鬱になるのか分からないが、
とにかく憂鬱になるのだから仕方ない。
しかし、普段はその憂鬱な2つ目の囲いのことは忘れていて、
「今日はあのブラジル料理を食べに行こう!!」と家を出て、
じはらく歩いていると、1つ目の囲いに出会い、
そこで、あっ、次はあの鶏達のいる囲いだ。
また野良犬が半笑いで鶏を振り回していて…
と、そこから気持ちが沈んでいくのであったが、
それでもまた今日こうして、
ブラジル料理店に向かって歩いているのだった。
1つ目の囲いが見えてきた。
「あっ、そうだった!!
俺は毎回毎回、この囲いを見て思い出すんだ。
家を出る時にここのことを忘れてなければ、
わざわざ憂鬱になりにブラジル料理店になんかに行かないのに…」
そしてそこで引き返すという手もあるというのに、
何故か2つ目の囲いの横を通る俺。
あぁ、今日もいるわいるわ。
にやけ顔で鶏を振り回している野良犬たちが。
案の定、藪から蛇を引っ張り出している犬も…
見て見ぬふりをしながら、
鳥達のいる囲いの横を足早に過ぎようとしていると、
囲いの中から俺の肩をつつく鳥が…
気持ち悪いので、知らぬふりをし小走りでやり過ごそうとするが、
そこでハタと気が付く。
「そっか。俺もこの鳥を振り回して放り投げれば
自分のものに出来るんだ!!」と。
しつこくつついてくる鳥と併走しながら、
恐る恐るヤツの羽を掴む。
怖いので鳥の正体は見る事ができない。
羽だと振り回すには頼りないので、
羽の付け根の、肩の部分を掴む。
と、ここで警戒したらしい鳥が、大声で鳴いた!!
それは、小学生の頃、
友人と二人でその鳴き声を真似てカナ文字化して笑った
七面鳥の声そのものだった。
「アブラカ・ダブラカ・メラリ!!」
おーーーっ、七面鳥かよ。
今の季節にピッタリじゃんか

おしっ!!
絶対ものにしてやる!!
羽の付け根でもまだ頼りないと思った俺は、
七面鳥の首根っこに持ち替えた。が…
走りながらだからうまく持ち替えられず、
結果、ヤツの首をつまむ事に…
すると、つまんだ指の間にプチッと、
軟骨か何かが首の内部で取れて、
それをつまんでしまった様な嫌な感覚が…
しかしそれを無視して、今度はなんとかヤツの首の皮を鷲掴みにし、
「おりゃーーーっ」と頭上で1回転させ、
目をつぶって「えいやっ」っと見事に放り投げた!!
「やった!!」
すると「カシャッ!!」という乾いた音。
「あ…? カシャッ!!…って?」
ヤツが落ちた先の薄明かりの中に顔を向ける俺。
七面鳥を放り投げた後の格好のまま、
ゆっくりと瞼を開いた俺の、視線の先にあったものは…
俺がたった今思い切り放り投げた、自分の枕だった(泣")
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枕は見事に部屋の隅っこまで飛んでいた。
軟骨だと思って摘んだのは、枕の中のストローチップ。
七面鳥の首の皮だと思ったのは枕カバー。
そして、寝床の横に置いてあったティッシュボックスが、
枕の近くにまで移動している事から察するに、
ご丁寧に、ルール通り枕を頭上付近で一周させたらしい。
その時にティッシュボックスを引きずったようなのだ。
またいつか、あの「行きつけ」の店に行くことになるのだろうか…
部屋の隅っこにだらしなく落ちている枕を見つめながら、
朝っぱらからひどく憂鬱になる俺なのであった(笑)

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