病棟が変わって10日が経過した。
恥ずかしながら、環境の変化に適応できず、
ひたすら疲れている。
毎日帰宅後に、
CCレモンを飲みながら、
ベランダのミニトマトを見てぼーっと過ごし、
その後ベットに腰掛けて、
アイスクリームを食べながらぼーっと過ごす。
それから、買ってきたサンドイッチをおかずに、
冷凍してあるご飯をあたためて、
生卵とコチジャンを混ぜて食べる。
気付くと10時過ぎで、
もう寝なきゃ…って、
なんとかお風呂に入って寝る。
ここ一週間、毎日そんな感じだった。
野菜を食べなくても、掃除をしなくても
どうなることもなく過ごせることがわかった。
今担当しているのは、男性の急性期病棟なので、
退院が目前の患者さんが何人もいる。
大抵の人は、家に外泊を繰り返し、
慣れてきたところで退院となる。
今日は、来週末あたりに退院を目指している
患者さんのところに様子を窺いに行った。
彼は、断薬して、病状が悪化し、
幻聴に振り回されて電車に飛び込んで入院となった。
1人暮らしなので、
断薬が心配だった。
私は、生活スタイルの調査からはじめた。
「1人暮らしって大変ですよね。
ご飯は3食食べられていますか?」
服薬は食事とセットとなっていることが多いので、
食生活の乱れは、服薬の乱れに繋がる。
「大丈夫ですよ。ちゃんと食べてます」
彼は無表情で答えた。
「近所にお弁当とか買えるスーパーはあるんですか?」
「うん。自分で作ってるよ。野菜炒めとか」
「へぇ〜すごいですね」
いやいや、嘘だ。
自殺企図以降、刃物は親が処分したし、
彼の家にはフライパンなどの調理器具は何もない。
おまけに彼は、病院でも朝ごはんを食べない。
しかし、そんなにさらりと嘘をつかれると、
話のもって行き様がない。
「私は朝ごはんは食べないんだよね。
牛乳飲むくらい。
あと、ご飯は全っ然作らないよ。めんどくさいし。
毎日毎日お弁当。
買ったものでもけっこう美味しいですよ〜
今度の外泊は、あんまり無理をしないで
お弁当とかかってみるのもいいかもしれませんよ?」
お返しに、私も嘘をついた。
そして、彼が外泊後に、
「ご飯はお弁当を買っちゃいました」と
言ってくるのを待つ。
ご飯に関する言動が、実際と異なっているうちは、
食事とセットであろう服薬についても、
事実と異なっているに違いない。
「ついうっかり飲み忘れたときにどうしたらいいか?」
とか、
「飲み忘れないようにするための工夫」
とか、
そんな話を一緒に考えたい。
そこまで到達するには、
いましばらく時間がかかりそうだ。
無職のおじさんが
「仕事があるから眠くなる薬が入っていないか心配」と言ったり、
昭和30年生まれのおじさんが、
「戦争に行ってたときは…」と言ったり、
見栄なのか病状なのかよくわからない嘘をつかれることが多い。
男ってそういうもん…なんてことはないだろうから、
やっぱり病状なのかな?
そんな微妙な駆け引きも、私の疲労の原因となっている。
一方で、大きな希望を感じているのも事実だ。

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