それから長年にわたってその業者と地元の人々、そして見習い職人との長期にわたる死闘が開始されたのであった。この戦いが始まる以前は全ての取引は現金決済で行われていたが、この業者は仕入先に対して手形決済で支払い見習い大工の電動工具などを仕入れ月賦で売りつけていたようであった。
ゆえにアルビスから突然取引停止を受けた時点で相当資金繰りに苦労しただろうと思われた。森岡は諦めが早いので嫌なことはすぐ忘れ新路線を歩もうとしたが、相手は営業妨害的な行為で何時までも嫌がらせを継続し始めた。
とにかく社内の建築スケジュールなどの情報が相手に漏洩し建て方や棟上げの前日になるとそのグループが一斉に退社届けを出して翌日から現場に行かなくなったりした。当初は必ず他に人員手配をしておいて代行をさせたのだがその森岡のとった手段に対してと社長は人を簡単に使い捨てにする人間であると逆手にとって悪宣伝をしだした。
森岡は情報が簡単に漏れるのを回避するため外国人の設計士と、貿易担当者を採用し内部文書から日本語をなくしたがそれでも情報の漏洩は避けられなかった。
またその他の嫌がらせの一つに毎晩夕方7時ころから10時ころまで、そして深夜1時ころから2時頃まで再度いたずら電話がかかってきた。とくに深夜は海外からの連絡も入るので森岡は安眠を妨害され非常に迷惑をこうむった。また同一時期に地元主力取引金融機関の急激な貸し渋りが始まった。
このような状況が数年継続したある日、本社事務所として使用していた建物の地主に会ったら口頭一番突然事務所を出て行けと云われた。完全に村八分であることをこのときに知った。森岡はこのような理不尽なことに負けるものかとかえって奮起しだしたのである。
この本社事務所の土地は当時の村役場の収入役がアルビスに破格高額にて賃貸していたし、その妻がアルビスの事務員として勤務していた。そしてその妻が高額の賃借料の支払いを受け数年間にわたり40%程度ごまかして納税していたのを突き止めていた。
偶然ではあったが追い出し勧告を受けた当日から突然深夜の無言電話が止まったのであった。森岡は収入役の仕業であったかと思うようになっていた。
一方、数日後収入役の妻の不正申告事情を夫に伝え、村役場の金庫番がこのような不正を許していることを攻めた。すると数日後収入役から妻はすでに修正申告をしたので問題はないと言い訳してきた。
森岡はこのような馬鹿な話は通用しないと言い返した。当時毎年黒字申告していた森岡は、それでは私も偽装申告をして後で修正申告をしても良いのかと食い下がるとともに地元の有力新聞に通達した。その結果新聞記者が収入役を直接取材し大きく取り上げ掲載したため、事件は表面化し村長の任期と共に市役所を去った。また当時の村長もその後不正が発覚し役場を去った。
その後この村は町村合併により北杜市の一部の町となったが、そのような問題を起こした妻は市会議員に立候補し当選し平成21年現在も市会議員を務めている。この世の中にはこのような倫理観の無い議員でも事件後の年月がたてば一般市民は忘れてしまい選挙で選ばれるのである。
話を戻すと深夜の無言電話は止まったが夕刻から10時頃までの無言電話はやまなかった。かえって回数が増えたのであった。そして元の賃上げを扇動していた首謀者が、隣の長野県にあったスタンダードログホームをスポンサーとしてアルビス本社から数キロのところに事務所を建設し完成の暁にはアルビスのスタッフを全員引っ張り叩き潰す計画であるとの噂が広まり社員が大きく動揺をはじめた。
深夜電話が停止してから半月ほど経って風変わりな女性が森岡社長に面会したいと訪問してきた。この女性は高齢にもかかわらず森岡に対して英語で挨拶しペラペラとお喋りをはじめた。その内容から「金物ショップすずき」はアルビスとの決別後その女性を雇ったようである。
経歴は森岡と同郷の関西出身で、米国にガーデニングの勉強のために留学したとのことを自己紹介した。とにかくこの女性は年増ではあるが派手な服装をして香水プンプン、関西弁で喋り捲った。そして自分の恥話など関係無く話す口軽女であった。
そこで森岡は今まで内部書類を誰かがコピーして持ち出しその女が解読していたのではないかと疑った。何でも後先考えず喋るので相手の情報を全部聞き出そうと話しを面白く聞く態度をとった。
そのうちに連日森岡の社長室に真っ赤な薔薇の花を持ってきたり怪しげな雰囲気になったので、話しを殆ど聞き終わった時点でアルビスは外国人社員その他大勢のスタッフが在籍しモラルの点で不信をもたれると困るので今後は家内の居るとき自宅にきて面白い話をしてくださいと云い区切りをつけた。
次回は 神の裁