商店街の閉まってる店の前にゴザを敷き
作務衣を着て頭にタオルを巻いた若者が正座している。
若者の前には墨で書かれた「書」がサンプルとして何枚か並べられている。
イーゼルには看板が立ててあって「あなたを見てインスピレーションで書きます」と書かれてあった。

似顔絵を描く人はよく見かけるけど、書で人を表現するのって一体どんなの?
しかも「お代はあなたの気持ちで、」って書いてあった。
お客が代金を決めるというのは
一見、親切そうに思えるけど、日本人の見栄っぱり根性や情深さを逆手に取った悪どい商売だと思う。
きっと相場は千円ぐらいで、千円渡せば笑顔で受け取るでしょう。
1万円渡せば「ありがとうございます」って深ぶかと頭を下げるでしょう。
逆に100円ならムッとするでしょう。
場所代もかかってないし、紙と墨だけだから
100円でも利益はあるはずです。
いったいこの若造が、人の何を見て書くんやろ?
俺を見て「禿」とか「眼鏡」とか書いたら殴ります。
300円ぐらいで書いてくれへんかなぁ〜
若者の前を何度も何度も通るねんけど
恥ずかしくって声をかけれない。
しばらくして若者の前に自転車が止まった。
70歳ぐらいのおっちゃんが
自転車に跨りながら若者と喋り始めた。
俺は少し離れた自動販売機の横で
人を待ってるフリして2人を観察する事にした。
おっちゃんは興味津々で
若者にいろいろ質問してる。
若者は笑顔で答えているが目は真剣だ。
どうやら既に始まってるようだ。
インスピレーション全開。
若者が筆を取った。
一瞬の出来事だった。
おっちゃんの顔から笑顔が消えた。
千円と引き換えに書を受け取る。
はっ!何て書いたんや・・・
駆け寄って覗き込んだ。
「山」
「山?」 確かに「山」と書かれてあった。ぶっとい「山」だった。
おっちゃんは小柄で、外見から「山」は想像できない。
何で「山」なのか?
若者はおっちゃんの中にある、山のように大きく穏やかな心を見たのか?
とにかく俺は
「300円でもいらないわ、」ってその場を立ち去った訳。