小さな部屋なのに、探しても探してもなかなか出てこなかった句集が見つかった。川柳性や型式、散文と韻文についてなどを思うとき、いつも頭をかすめる句集であり、初心の人達と話し合うときなどにも思い浮べる句集だ。
句集『おんなの紙碑』 藤巻昌子 昭和42年刊 新書版24頁
序 大野風柳 句集と作者の紹介を横村華乱
六十三句のあとに作者の川柳入門時を歌代水車
あとがき 著者
扉に
ハンカチを洗う悲しみを洗う 昌子
の一句と、小さく、作者の写真、昭和20年生とあり、住所と職場。
ハンカチを洗う悲しみを洗う
病院のスリッパを履く手をふれず
指細き人といて手をひっこめる
中古車の下から足が二本出る
鋳物場に錆びついている父のかげ
雪国の職場へ左遷されて冬
カマキリに似たかげおとしペタル踏む
前髪をかき上げおとこのポーズ真似
ゴムがつぱでもおんなの肩であり
毛糸あむ冬やわらかくあたたかく
抜殻になってこたつへころり寝る
寒波来て電話を受けようともしない
長男の嫁底抜けに笑う術
とむらいの花輪の道をかぞえつつ
珠のれんくぐる背中のつむぎ帯
おやゆびとひとさしゆびでいちご摘む
ひまわりに負けた麦わら帽の恋
こんな小さなものよと指丸め
スリッパを持って街ゆく文化の日
独身のつもりはなくて犬を飼う
出目金のように社会をのぞくだけ
菊日和陸軍大将天に召す
冷や飯を食べる父の合掌ふかく
職人の指を茶碗であたためる
恋愛をしてから廊下の隅歩く
思い過ぎだったかな賀状来て
肩と肩ふれ合う位置に愛がある
茶碗投げたわたしの手の魔性
うっぷんを晴らすにサラダかきまわし
修業積んでもオシャベリは遺伝
てのひらの唄よ神様コンチクショウ
待針を追って真昼の絵そらごと
ごはん粒流し平気な娘に育ち
愛ここにタバコのけむり吐く気配
ヘアーピンぴょこんと背中へとびこんで
赤いスリッパを履く花びらのように
紺がすりめくふるさとの星座見る
ついに歯をみがかず日曜が暮れる
敗戦のシミが誕生日の写真
手袋をキャベツのようにはいでゆく
エンゲージリングの指に軍手する
酒宴高まるシームレスに汗
ひまわりの夏バテ西洋人に負け
独身を女医スマートに生きている
せんたくを残し日曜日が暮れる
せんたくの途中でかいのない思案
さくら散るようチョークの粉こぼれ
シャワーから首だけ出して禅知らぬ
他人ならできる狂った義母背負う
へそくりを貯めたらし母のいびき
ここが母の里ひぐらし鳴きやまず
熱帯魚ヒラヒラビールの泡こぼす
ミラボールに顔を上げないのかふたり
サボテンの花によく合うバレー曲
せっけんの泡の向こうにわたしの手
たらい水まるく母は浜育ち
粉洗剤パラパラ魔法かけましょうか
オープンでいこう弁当箱のふた
東京をコピイふるさとペンキ色
カードアを閉めてわたしが淑女めき
夢をみましょうマニキュアの乾くまで
とうきびの穂波にパラソルくるくると
雨あしに似た白いマニキュアの光