小説『BT’63』  書籍関係

[書籍紹介]

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「BT」とは、ボンネットトラックのこと。

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乗用車のように、
エンジンが運転席より前のボンネットに収まっている。
エンジンの整備性が良く、
大型のエンジンも簡単に収めることができ、
路面とのクリアランスを広く取ることができるので走破性が高い
等のメリットがあったが、
法律や交通事情などで
トラックそのものの全長が規格によって定められ、
ボンネットの分の長さはデッドスペースとなるため、
容積あたりの経済性が良いキャブオーバー型が主流となった。

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現在では、軍用や発展途上国向け、
巨大なエンジンを搭載するアメリカなどの場合を除き
使用されることは少なくなっている。

本作は、池井戸潤には珍しい、
タイムトリップもので、
その重要な要素として、
ボンネットトラックが登場する。

ストレスから精神に変調をきたし、
職を失い、妻とも離婚した大間木琢磨は、
2年の療養後、再就職を求めて家にいた。
5年前に亡くなった父の遺品である
運輸会社の制服に袖を通したところ、
眼前に不思議な映像が流れる。
それは、40年前に父親が体験した世界だった。

時は東京オリンピック前年の1963年
中小の運輸会社、相馬運送に勤めていた父、大間木史郎は、
経営の意欲を無くした創業者、無能な上司に代わり
経理担当総務課長として会社を支えていた。
しかし、運輸業界も過当競争で曲がり角にあり、
会社の業績は下降、建て直しのために奮闘していた。

その会社でBT21の運行記録に不審な点を発見した史郎は、
そのトラックを担当する運転手を注視していた。
実はその運転手の中に放火偽装殺人の犯人が混じっており、
また、他の運転手も借金が原因で請け負っていた仕事があった。

一方、暴力夫から逃げて来た薄幸な母子に
援助の手を差し伸べた史郎は、
次第にその女性、鏡子に心を惹かれていた。
更に、新事業として始めた宅配便を推進した史郎は、
不幸な事故に遇い、相馬運送は倒産の危機に陥っていく・・・

2000年時に
1966年生まれの琢磨34歳が、
1963年時、琢磨が生まれる前の父史郎の人生を辿る物語。
二重構造で、
様々な関係者に会って父の足跡の謎を解こうとする琢磨と
制服や車のキーを契機に観た
父親の世界が交錯する。
まさに高度成長を支えた運輸業界の一人の人物が
いかにして生きたか、を伝える内容で、
それが琢磨自身の生き方と重なり合い、
救いを与える。

と、アイデアはいいのだが、
もどかしい
そして、話がつまらない

「小説トリッパー」に
2000年から2001年にかけて連載されたものを
2003年に加筆の上出版。
池井戸潤にとっては長編第7作。
1998年に「果つる底なき」で江戸川乱歩賞を取ってから、
2006年に「空飛ぶタイヤ」で活路を見出す前の、
中間的作品で、
銀行が舞台ではなく、
しかもタイムトリップを題材に使った点で異色だが、
しならずしもうまくはいっていない
文庫本で上下750ページになる大作だが、
とにかく長く、「球を置きに行っている」印象がある。

そして、人が沢山死に、
それが闇の世界の住人の仕業というのだから、
現実感が失せる。
琢磨が観た父の世界、といいながら、
史郎の知らない部分の描写も多い。

なにより、筆が湿っている
感動を与えるためかどうか、
琢磨の史郎への愛情不必要に強調されている。

ボンネットの上の運転席を琢磨は見上げた。
いままさにそこに父の姿を見たような気がして
熱いものが込み上げてくる。
父が青春の全てを賭けた瞬間を
こいつは見ていた。
一人の女性を愛し、
挫折と絶望の淵へ落ちていった四十年前の父。
熱い目をした男の姿を。


ここはまだいいが、次のような記述もある。

父さんのこと、誤解していた。
立派だよ、父さん。
過去を自分一人の胸にぐっとしまいこみ、
言い訳ひとつせず、
地味な経理屋として
その後の人生を歯をくいしばって生きてきた。
父さんは竹中親子に注いだのと同じ愛情を、
母さんや俺に注いでくれたんだと思う。
だけど、父さんには忘れられない過去があった。
だから、父さんはいつも仏頂面をして、
仕事に打ち込む姿しか見せられなかったんだ。
いま、それがわかった。
俺はいま、胸を張っていえる。
父さんのことを尊敬している。
ありがとうよ、父さん。
琢磨は嗚咽した。
涙は止めどなく琢磨の頬を流れ、
琢磨は誰憚ることなく泣いた。


このブログの継続的読者なら、お気づきのことと思うが、
ここのところ、池井戸潤の昔の作品をずっと追っていた。
銀行モノは、さすがに面白いが、
必ずしも良作と言えるものばかりではない。
「MIST」(2000年)や「銀行総務特命」(2002年)など、
このブログで紹介する価値さえ見出せなかったものもある。

しかし、2006年、「空飛ぶタイヤ」で、
池井戸潤は大企業対中小企業という対立軸の作品で成功した。
その前段階の、ちょっとうまくいかなかった作品が、本作。


『カメラを止めるな!』にパクリ疑惑  映画関係

わずか2館で上映されていた映画が、
今や全国190館で拡大上映。
観た人のほぼ全員が「面白い!」と絶賛。
口コミで評判が広がり続けている映画
「カメラを止めるな!」(上田慎一郎監督)。

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私の口コミで娘も観て、
「面白い」と喜んでいた。

そこへ、パクリ疑惑が起こった。

「映画の評判は、僕も周囲から聞いていました。
そんなとき、過去に僕が主宰していた劇団の後輩から
『あれ、先輩の作品が原作ですよ。知らなかったんですか?』
と言われて、初めてその映画が、
僕の演出した舞台『GHOST IN THE BOX!』(以下『GHOST』)
をもとに作られたことを知ったんです」

と語るのは、和田亮一氏。
2011年から2014年まで
劇団「PEACE」を主宰していた人だ。

映画を観た和田氏は、こう言う。

「この映画で特に称賛されているのは、構成の部分。
前半で劇中劇を見せて、
後半でその舞台裏を見せて回収する、
という構成は僕の舞台とまったく一緒。
前半で起こる数々のトラブルを
その都度、役者がアドリブで回避していくのもそう。
舞台が廃墟で、そこで、
かつて人体実験がおこなわれていたという設定も一緒ですし、
『カメラは止めない!』というセリフは、
僕の舞台にもあるんです」

『GHOST』は、和田氏が企画して二部構成のプロットを考案し、
A氏とともに演劇の脚本として完成させたもの。
(舞台上演時は脚本がA氏、演出が和田氏とクレジット)。
2011年の初演が好評を博し、2013年に再演。
再演時には上田監督も観に来ていた

2014年に和田氏の劇団が解散した後、
2015年になって、上田監督が「PEACE」の元劇団員のB氏と接触し、
『GHOST』の映画化を企画。
上田監督はA氏に映画用の脚本執筆を依頼したが、
このプロジェクトは頓挫。

2016年に上田監督は「カメラを止めるな!」の
プロデューサーの市橋浩治氏から長編映画の製作を持ちかけられると、
「『GHOST』の映画版をやりたい」とB氏に伝えたという。
しかし、B氏には何の権限もない。

「Bに伝えたことで、
映画化の許諾を取ったつもりだったのでしょうか。
上田監督は大幅にAの脚本を書き直したことで、
『これは自分のオリジナルストーリー』と主張していますが、
構成や大まかな設定部分は完全にそのまま。
公開当初のクレジットにAとBの名前こそ入っていましたが、
原作の表記や劇団名、作品名は入っていません」
と、和田氏は言う。

A氏もこう語る。
「上田監督からは事後報告の形で
『名前を入れました』と連絡がありました。
しかし、脚本を書き直して映画化する過程で、
許諾を取る類いの連絡はありませんでした。
公開されたいま思うと、
原作として和田さんと私のクレジットがないのは疑問に思います」

公開後も、監督から劇団関係者への連絡は一切なかったという。

和田氏は言う。
「弁護士に、双方の作品を見比べてもらった上で相談したところ、
類似点の多さや、Aの脚本をもとに書き直したものであるのに
原作の表記がないこと、
原作者である僕やAの許諾を取らなかったことなどから
『これは著作権の侵害だ』と。
現在、訴訟の準備を進めています」

問題が発覚する以前の上田監督のインタビューで、
上田監督は、こう語っている。

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「とある小劇団のちょっと変わった構造の舞台を観て、
『面白いなあ』と思って。
脚本家に『これを映画化したい』と伝えたところ、
『ぜひ』ということだったので、
最終的には基本的な構造しか残っていないんですけど、
その構造をもとに3、4年プロットを考えたりしていました」

また、別なインタビューでも、こう語っている。

「きっかけは、5年ほど前に観たとある小劇団の舞台なんです。
B級殺人サスペンスみたいな話を1時間くらいやっていて、
ちょっと『なんだこの舞台は』みたいに思っていたら、
カーテンコールのあとに実は……ってなって、
その構造がすごく面白いなと思ったんです。
そこからこの映画の企画を発案しました。
最初はその舞台の脚本家や出演者の方と一緒に企画を進めていたんですが
なかなか前に進まず、一時はこの企画から離れていました。
2016年末、とある企画コンペに出すのをきっかけに
またこの企画を引っ張り出して、
プロットを固めていきました。
その企画コンペには落ちましたが、
そんなときにちょうどこのシネマプロジェクトのお話をいただいたんです」

どうやら、舞台の映画化という意思があったこと、
構造をいただいたことは認めているが、
構造(アイデア)そのものにも著作権があることに思いが至らなかったようだ。
自主映画、というスタンスが軽い気持ちにさせたのかもしれない。
だから、口約束で済ませてしまったのだろう。
いずれにせよ、
著作権に対して認識不足がそうさせたとしか言えない。

現在、『カメラを止めるな!』のエンドロールには
「原案」のクレジットが載っているが、
和田氏は「原作」のクレジットを求めている。
「僕が命懸けでやっていた劇団があまりに軽んじられている気がして、
上田監督に連絡を取り、
『せめて、原作という形で劇団名、作品名を入れてくれませんか?』
と求めたが、
その後の話し合いでも、
製作側は頑なに「原作」としてのクレジットを拒否。
「原案利用契約」が提案されたが、
権利を不当に買い取る内容で、
和田氏は納得できなかった。

いずれにせよ、
こんなことで揉めていては、
作品にも傷がつく
今からでも遅くはない、
依怙地にならず、
配慮が足りなかったことを認めて、
「劇団「PEACE」の舞台『GHOST IN THE BOX!』
(脚本A氏、演出和田氏)に
インスパイアされたものです」
(これが事実に近い)とでもクレジットを入れて、
それなりの原作料を支払って、
裁判闘争など、
スキャンダル化することを避けた方が
映画の観客にとってもプラスだと思うが。

昔、黒澤明監督の「用心棒」(1961)が
イタリアで「荒野の用心棒」(1964)として勝手にリメイクされた時、
東宝が著作権侵害だとして告訴し、勝訴。
「荒野の用心棒」の製作会社は黒澤たちに謝罪し、
アジアにおける配給権と
全世界における興行収入の15%を支払うことになった。

自主映画の時にしかるべく筋を立てて、
わずかな謝礼で済んだものが、
これだけのヒットの後には、
それでは済まない可能性もある。

ただ、日本映画の今年の快挙
水を差さずに、円満に解決していただきたい。

(週刊FLASHなどの記事を参考に再構成)

タグ: 映画

小説『漱石センセと私』  書籍関係

[書籍紹介]

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俳人・歌人の久保より江(1884-1941) の半生を、
出久根達郎が書いたもの。

夏目漱石とその夫人鏡子正岡子規寺田寅彦らが登場する。

より江の少女時代、漱石と正岡子規が
松山のより江の祖父母の家に下宿し、
そこから交流が始まる。

また、祖父と一緒に漱石の家を訪ねた時知り合った3人の学生のうち、
東京帝国大学医科大学生の久保猪之吉と文通し、
後に結婚する。
久保猪之吉(1874 - 1939 )はより江との婚約時代ドイツに留学し、
日本の耳鼻咽喉科学の先駆者となる。
妻のより江とともに福岡で雑誌「エニグマ」(1913年)を発行し、
夫妻の住まいは文化人のつどうサロンともなり、
柳原白蓮などの文人や九州以外からも俳人や文人が集った。

より江は幼少期、猫と会話を交わすことができ、
その猫は漱石に付いていってしまう。
どうやら、それが「吾輩は猫である」につながるらしい。
「吾輩は猫である」には、より江は17、8の女学生で登場する。

猫がより江の前に再び姿を現すのは、
ドイツに猪之吉を見送る船で、
猪之吉の腕に抱かれているのを見、
より江は猫の声を久しぶりに聞く。
「ご主人は僕が守ります」と。

漱石の妻の鏡子との交流も描かれ、
鏡子の入水自殺なども出て来る。
一般的に鏡子は悪妻だと言われているが、
ここでは理知的で聡明な女性として描かれている。

より江の祖父、祖母、父母も魅力的に描かれ、
出久根の味のある文章で、のんびりとした世相が伝わって来る。

猪之吉が師事した落合直文が国語辞典を編纂し、
そのためにより江が祖母の口から出る様々な言葉を
猪之吉に送るところなど、ほほえましい。

漱石が想いを寄せた女性として、
大塚楠緒子(くすおこ)という女性が出て来るが、
彼女を親友と取り合ったことが「こころ」に反映されているという。
彼女の訃報を聞いた時、
漱石が詠んだ句、
「有る程の 菊抛げ入れよ 棺の中」
がその惜しんでいる心をあらわしている。

明治の文人たちの交流と人間像を描いて
興味が尽きない小説である。


作品の中に、
松山名物の「五色そうめん」というのが出て来るので、
取り寄せてみました。

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22束入り3240円。

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抹茶・梅味・玉子、それに白と混合で五色。
実は四色?

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享保7年(1722年)、
八代目の娘が
椿神社へ参拝の折、
五色の糸が下駄に絡みついたのを見て、
父親に「そうめんに五色の色をつけてみては?」
と進言したのがきっかけだといいます。

これが梅味。

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抹茶。

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白。

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混合。

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昔は、そうめんにも冷麦にも
一本だけ紅いのが混じっていたものですが、
いつの間にかなくなってしまいました。

2017年の日本ギフト大賞を受賞。

「五色そうめん」のホームページは、↓をクリック。

https://goshiki-soumen.co.jp/


花火大会ランキング  耳より情報

恒例の花火大会ランキング

ネットにはいろいろ出ていますが、
これから開催のもので、
検索数、打ち上げ数、観客数を加味した独自ランキングを紹介。
(集計期間:2017年8月1日〜2018年7月31日)

1位 大曲の花火

8月25日
秋田県大仙市
打ち上げ数:1万8千発

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2位 熱海海上花火大会

7月27日〜8月30日
静岡県熱海市渚町
打ち上げ数:5千発

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3位 土浦全国花火競技大会

10月6日
茨城県土浦市佐野子地内
打ち上げ数:ー

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4位 川崎市制記念多摩川花火大会

10月13日
神奈川県川崎市高津区
打ち上げ数:6千発

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5位 映画のまち調布“秋”花火大会

10月27日
東京都調布市
打ち上げ数:1万発

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6位 モエレ沼芸術花火

9月8日
北海道札幌市東区
打ち上げ数:1万8千発

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7位 流山花火大会

8月25日
千葉県流山市流山1丁目
打ち上げ数:1万4千発

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8位 鶴見川花火大会

8月18日
神奈川県横浜市鶴見区
打ち上げ数:1800発

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9位 猪名川花火大会

8月18日
兵庫県川西市小花2丁目...
打ち上げ数:4千発

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10位 長島温泉 花火大競演

8月4日〜9月2日
三重県桑名市長島町
打ち上げ数:1500発

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掲載日の関係で、
タッチの差で既に開催されてしまったものもあります。
ご容赦下さい。


小説『最終退行』  書籍関係

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最終退行」とは、
銀行の支店で、
最後まで残って仕事をした者が
店内を確認し、
施錠をして
銀行を出る立場のことを言う。

東京第一銀行羽田支店の副支店長・蓮沼鶏二は、
融資課長との兼任で残業が多く、
最終退行の常連だった。
蓮沼は、東京第一銀行に勤めて22年経つが、
いつも支店を転々としている立場で、
希望する証券担当にはなれなくて鬱々としていた。

東京第一銀行は久遠前頭取の時代の過剰投資が不良債権と化し、
公的資金に頼っている状態だった。
時はバブルのはじけた後で、
銀行の「貸し渋り」「貸し剥がし」が問題になっていた頃。

物語は、出世路線から外れて
反抗的になっている部下の塔山と蓮沼の確執、
保身しか頭にない谷支店長と蓮沼との確執を中心に進展する。
これに「M資金」を巡る詐欺がからむ。
M資金とは、敗戦時、
軍が東京湾に沈めたという金塊を巡る伝説で、
その資金を巡って大会社の重役が騙される事件などが起こっていた。
塔山が融資の稟議を回してした東京海洋開発という会社が
そのM資金の金塊発掘の計画をしていた。

また、東総建設の不良債権への債権放棄を巡り、
今だに院政を敷く久遠前頭取に裏金が回っており、
更に、東京海洋開発は久遠にM資金のことで
詐欺をしかけていた。
しかし、久遠はそれを見抜き、
逆にそれを利用することを考えていた。

一方、田宮金属工業からの貸し剥がしを巡り、
谷支店長が違法な「融資予約」をし、
それを実行しなかったことから田宮金属が倒産、
田宮から谷は裁判で訴えられる。
しかし、谷の陰謀で蓮沼の失策とされたことから、
蓮沼は窮地に追い込まれる。
蓮沼は本部に呼び出され、
結果、九州の水産会社への出向を命じられ、
その結果、離婚の危機に追い込まれる。

いよいよ蓮沼の退社の時が来た。
同時に久遠のM資金の作戦と、
久遠の裏金の証拠の発見と、
田宮と谷の裁判の決着と、
妻との離婚調停と、
全てが最終局面を迎えるのだった。

文庫本で500ページ。
様々な要素がからまり、
密度は濃い。
そして、池井戸作品独特の
銀行での出世争いと
銀行の中小企業に対する理不尽な行い、
更に行員に対する非人間的措置への告発がなされる。

たったひとつの人間関係、
ちょっとしたボタンの掛け違いひとつで、
有能な人材を飼い殺しにしてしまう銀行という組織。
行員にとっても不幸、
銀行にとっても不幸でありながら、
それを修正することすらできない硬直した人事制度。
結局、塔山は組織の犠牲になって
銀行員人生を棒に振ってしまったのだ。


久遠に対する描写。

頭取レースの長い戦いの間に
研ぎ澄まされてきた企業戦士の潔さは失われ、
長く頂点を極めた者特有の
傲慢さと図々しさ、
麻痺した感覚の中で、
金に対する執着だけが募ってきた。


銀行員に対する描写。

保身と出世しか考えていない人間に、
組織を根本から変えていくほどの力はない。
そういう連中にとって、
怒り、牙をむき、銀行員生命を賭して巨悪に立ち向かうやつは
「馬鹿」にしか見えない。


後の池井戸潤作品の萌芽を感じさせる勧善懲悪のストーリー。





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