青森の空気は淡い。夏の空も日差しも淡い。淡い午後。
卒塔婆より高く咲きけり立葵
花はうすピンク空は淡く白いウォーターカラーの夏
あちこち痛い。
右上腕、くろじ。左肩、右腰の鈍痛。両膝に点在する赤いあざと擦り傷。
左顎付け根の打身、疼痛が走る。
フォアガイにアウターガイはいいけれど、メイン・ジブ・スピンハリヤードに各シート、もっと、軽く引けないものかはぁ。
午後の第2レースは、午前と打って変わって風が吹いた。先行艇は、ほぼ45度ヒールしていた。我々の船は、波に煽られ叩かれた。
最後の周、マークを回ってスピンを揚げる段。スピンハリヤードを踏ん張って引いていたら、シュラウドに絡んだ。それを解こうと、サイドデッキに上がった時、ブームが飛んできた。ヘルムスマンの「危ないっ」という声が、右耳をかすった。右上腕に衝撃を感じ、左の顔をシュラウドに強く打ち付けた。インボランタリージャイブ。セーリングバイザリーで、メインセールが勝手にジャイブしたのだ。
バウマンは、私をブームの下へ抑え込み、二人でしゃがんだ。
足元で、スピンハリヤードのブロックが外れて、転がっている。
波揺れで、シャックルが緩んだのか。一先ず、スピンの作業は中断。
ヘルムスマンが、「大丈夫かっ」と聞く。へなへなとそちらを向いて「顔を打ちました」と応えると、「青くなっていないから大丈夫だ」で終わった。
平気な顔でいて、内心、早く陸に上がりたいと思う。もう口からメロディーも湧いてこない。船酔いが襲ってきたのだ。トイレにも行きたい。しかし、そんな暇はない。
ラストホームでフィニッシュ。船の片づけを終えて、陸へ上がっても具合が悪い。クラブハウスのトイレの臭いが胃から上ってくる。顔半分と腰半分がおかしい。数年前の記憶が蘇る。青函ヨットレースは、強風波浪だった。酔い止めを飲まなかった私は、4時間以上、内臓を引き出された蛇のように、キャビンとヘッドの床をのたうち回った。そんな暴風雨を物ともせぬ男たちによって、過去最速、7時間台でゴールしたのは不幸中の幸いだった。
テンダーを押し終えた時、つわりや出産なんて、もっと気持ち悪くて痛いんじゃないかと思った。耐えられそうにないなと想像した。
雨に打たれ荒波に挑む男の姿忘れまじ
舳先を過る波音聞きながら愛しき男のやさしさに抱かれて眠る
Copyright (C) Mihorin 2008. All Rights Reserved.